2016 Fiscal Year Research-status Report
穿刺吸引細胞診検体のトランスクリプトーム解析による甲状腺癌術前診断の可能性を探る
Project/Area Number |
15K10063
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
軸薗 智雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (10465312)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉谷 巌 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (50465936)
石橋 宰 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70293214)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 穿刺吸引細胞診 / 甲状腺癌 / マイクロRNA / トランスクリプトーム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に沿って、平成27年度は以下の3点を行った。 穿刺吸引細胞診検体のマイクロRNA解析による甲状腺癌術前診断技術の開発として、まず甲状腺癌細胞検体からの細胞回収時にガラス繊維フィルターを用いたトラップ法を採用することにより回収効率の改善を試みた。その結果は、フィルターを用いることにより検体中のほぼすべての細胞を回収することが可能であった。このことにより、RNA収量が増加した。また、ホルマリン固定パラフィン包埋サンプルからのRNA抽出において有効であるProtenase K(ProK)処理が、液状化検体細胞診(Liquid based cytology; LBC)検体に対してRNA抽出効率に及ぼす効果について検討した。その結果は、LBC検体からのRNA抽出にはProK処理が必須であることが示唆された。さらに、実際の臨床サンプルである穿刺吸引細胞診の余剰検体からRNAを抽出し、ProK処理をした群で解析が可能かどうかを検証した。その結果は、ProK処理した群においてU6 small nuclear RNA (U6)やmiR-221の発現を確認した。 平成28年度は、前年度の研究実績を踏まえ、以下の2点を行った。 甲状腺液状細胞診検体の固定保存液として、サイトリッチRed固定細胞(CR Red)と同Blue固定細胞(CR Blue)が頻用されるが、現状では使い分けに際して明確な基準はない。両固定保存液を用いて作製された甲状腺由来細胞からRNAを抽出する際に、処理がRNAの収量および質に及ぼす影響について比較検討を行った。また、甲状腺濾胞癌のFFPEサンプルからのtotal RNAについて、次世代トランスクリプトームレベル発現プロファイリングツールを用いて広大なトランスクリプトーム情報の中からバイオマーカー候補を見つける。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は前年度の研究成果をもとに以下の通り行った。 ①甲状腺液状細胞診検体の固定保存液として、サイトリッチRed固定細胞(CR Red)と同Blue固定細胞(CR Blue)が頻用される。両者には溶血作用および蛋白凝集抑制作用の有無という違いがあるが、現状では使い分けに際して明確な基準はない。両固定保存液を用いて作製された甲状腺由来細胞からRNAを抽出する際に、処理がRNAの収量および質に及ぼす影響について比較検討を行った。【結果】CR-Red固定細胞については、ProK非処理群ではRNAがほとんど得られなかったが、ProK処理により劇的な収量の改善が認められた。一方、CR-Blue固定細胞においてもProK処理はRNA収量を増加させたが、CR-Redの場合と異なりProK非処理群からもある程度のRNAは得られた。しかし、ProK非処理群のRNAのRIN値は低く、対照的にProK処理群のRNAのRIN値は9以上であった。また、この結果を反映して、一定量のRNA中のU6はProK処理群においてより高レベルで検出された。ProK処理を行うことにより、固定したヒト甲状腺由来細胞から得られるRNAの収量および質が改善した。 ②甲状腺濾胞癌のFFPEサンプルからのtotal RNAについて、次世代トランスクリプトームレベル発現プロファイリングツールであるClariom D (Affymetrix)を用いて広大なトランスクリプトーム情報の中からバイオマーカー候補を見つける予定。【方法】甲状腺濾胞癌3症例の癌部および非癌部組織のFFPEサンプルからtotal RNAを抽出した。バイオアナライザ(アジレント)を用いたDV200(200 ヌクレオチド以上のRNA 断片の割合)の測定および定量的RT-PCRによる18S rRNAの検出の結果に基づいてRNA 品質を評価した上でアレイ解析を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画に沿って以下の通り推進していく予定。 ① 定量的PCRに基づくmiRNA アレイ解析とデータの臨床統計解析:臨床検体を、病理診断および癌死危険度分類によって高危険度群と低危険度群に分類し、2群間での発現が有意に変動しているmiRNA の同定を試みる。具体的には、2群において各症例から抽出したRNA をサンプルとして、定量的RT-PCR 法に基づくアレイシステムを用い、網羅的かつ定量的なmiRNA 発現プロファイルの比較解析を行う。本解析の結果、2群間で統計的有意差のあるmiRNA を診断マーカーの候補とする。次に、各群の症例を50~80 症例に増やし、多変量解析により診断バイオマーカーとして有望なmiRNA および因子を見出す。次に、プロファイル比較解析から候補として見出したmiRNA について、検体ごとにその発現量をリアルタイムPCR にて定量解析し、アレイの結果を検証するとともに、ロジスティック解析を行う。これらの解析において条件を満たしたmiRNA を、最終的に術前の細胞診の段階で癌の悪性度を診断することの出来るバイオマーカーの候補とする。 ②次世代トランスクリプトームレベル発現プロファイリングツールによる網羅的トランスクリプトーム解析:得られたデータのバイオインフォマティクス解析を行い、上記2群間で発現が有意に異なるトランスクリプトを選別する。 ③ 定量的RT-PCRによるトランスクリプトの発現変動の検証:2群間で有意な発現変動が認められたトランスクリプトについて、定量的RT-PCR による発現変動の検証を行う。 ④ 発現変動mRNA がコードする蛋白質についての発現の検討:上述の実験により検証された発現変動トランスクリプトが蛋白質コード遺伝子のmRNA であった場合、ウェスタンブロット解析を行い蛋白質レベルにおける発現変動についても検証する。
|
Causes of Carryover |
上述の次世代トランスクリプトームレベル発現プロファイリングについては、解析コストの減少により当初の想定よりも安価に解析でき、その結果生じた残額を次年度繰越金とした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、この残額と合わせ、甲状腺細胞診サンプルも含めてより多くの症例での臨床解析を計画している。
|
Remarks |
第59回日本甲状腺学会にて第8回コスミック研究創成賞・優秀賞を受賞(2016年11月5日) 虎ノ門ヒルズフォーラム(東京)
|
Research Products
(5 results)