2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K10073
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
佐藤 工 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 助教 (30598462)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊井 俊夫 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 教授 (40139671)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | BRCA1 / エストロゲン / 乳癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳癌の原因遺伝子BRCA1のヘテロ接合は80%の確率で乳癌を発生させる。残念ながらモデル動物として用いられるマウスで検討された結果、BRCA1ヘテロ接合は乳癌を発生させなかった。このため人細胞を用いた検討が重要である。本研究は乳癌手術余剰検体から幹細胞、乳管上皮前駆細胞、乳管上皮細胞を表面マーカーに対する抗体を用い分離採取し、それぞれの細胞でBRCA1ヘテロ接合を遺伝子改変技術により作成する。これを用い乳癌発癌と関連が深い女性ホルモン:エストロゲンと発癌の関連を検討するものである。特にエストロゲンは転写因子であるためエストロゲン投与がBRCA1ヘテロ接合でどのようなmRNA発現変化をおこすか検討する予定であった。 本実験に先立ち細胞の不死化について検討したところ、細胞の不死化によりエストロゲン受容体が消失することがわかった。このため実験方法を改めた。申請者らはbioinformaticsにより本研究題材を検討した。BRCA1変異をもつ患者の多くは二つのホルモン受容体陰性、HER2陰性のトリプルネガティブ乳癌となる。多くのトリプルネガティブ乳癌は遺伝子発現パターンによる分類でのbasal-like乳癌と関連がある。実際にBRCA1変異を伴う患者の多くはbasal-like乳癌を発症する。近年、50遺伝子で遺伝子発現パターンによる分類を可能にするPAM50というシステムが開発された。この50遺伝子をもとに、BRCA1変異によるエストロゲン受容体を消失したbasal-like乳癌での遺伝子発現パターンを確認した。興味深いことにEXO1の発現が多いとbasal-like群のなかで予後良好となることがわかった。この検討により予後不良basal-like乳癌はEXO1発現レベルによりさらに細分化されることがわかり現在さらに検討を重ねている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
乳癌の原因遺伝子BRCA1ヘテロ接合は80%の確率で乳癌、40%の確率で卵巣癌になる。実験動物で多用されるマウスでBRCA1ヘテロ接合を作成しても、人と同様の結果が得られず人細胞での再現性が求められる。本研究は手術検体を用い、発癌機序を解明するモデル作成から始まる。手術検体を用いた検討のため倫理委員会の承認が必要となる。これについては本学での承認を得た。実際に卵巣癌手術検体で表面マーカーによる細胞分化度の違いに基づく分離の前段階として、細胞の不死化について検討した。ROCK inhibitorはprimary 細胞を不死化させるsmall moleculeであり、卵巣癌摘出検体をコラゲナーゼ処理により単細胞化しRock inhibitor投与により不死化するか確認した。実際に不死化がおこったが、表面マーカーであるエストロゲン受容体が消失することがわかった。このためROCK inhibitorの投与量を変化させてみたが、エストロゲン受容体消失はいずれの濃度でも誘導された。このため実験方法を改めることとなった。 bioinformaticsによる解析でEXO1の発現量が多いとbasal-ike乳癌のrelapse-free survival (RFS)が長くなることがわかった。これは多変量解析により年齢や病期を相殺しても有意に影響を与える因子であった。さらに別のデータセットを用い再現性を確認したところ、同様の結果が得られた。 このように当初の予定から少しずれたが、予期しない結果から新たな重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
乳癌は遺伝子発現パターンによる分類により詳細な予後予測が可能となってきた。治療の向上という観点ではあまり有用性を見出せない遺伝子発現パターンによる分類は、今後詳細な予後予測が求められる。本研究は上記のごとくEXO1の発現量によりbasal-like乳癌の予後が二つに分かれるという予期せぬ結果をもたらした。これは遺伝子発現パターンによる分類を超える予後予測ということである。この結果はさらに大きなデータセットでの再現性を求められる。 遺伝発現パターンによる分類と治療成績の向上はあまり前向きな関連が現在のところ見られていない。現在癌治療において、precision oncologyまたはoncogene-driven cancer therapyという概念が注目されつつある。これは癌で発現する遺伝子や経路をブロックすることで癌細胞選択的に細胞死を誘導する癌治療方法である。実際にher2に対するモノクローナル抗体:ハーセプチンはHER2陽性乳癌の予後を著しく改善した。今回の研究はEXO1の発現量が多いと予後良好となる。これはEXO1の発現量が少ないと予後不良であることを示唆する。EXO1が少ないことでおこる遺伝子発現変化を確認することで、EXO1発現低下により亢進する経路を特定し、この経路の阻害薬がprecision oncologyとなりうる。この効果的治療方法の確立も同時に目指す予定である。
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Research Products
(4 results)