2015 Fiscal Year Research-status Report
肝内微小循環改善と脾機能制御による肝硬変症に対する革新的集学的治療法の確立
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15K10169
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Research Institution | National Hospital Organization, Beppu Medical Center |
Principal Investigator |
川中 博文 独立行政法人国立病院機構別府医療センター(臨床研究部), その他部局等, その他 (10363334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤星 朋比古 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20336019)
下田 慎治 九州大学, 大学病院, 講師 (30279319)
前原 喜彦 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80165662)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脾門脈外科 / 門脈圧亢進症 / 脾機能亢進症 / 類洞内皮細胞 / EndMT / 肝内微小循環障害 / 脾硬度 |
Outline of Annual Research Achievements |
類洞内皮細胞機能障害におけるEndothelial-mesenchymal transition(EndMT)の関与:内皮細胞由来の細胞が生涯にわたりLacZを発現するトランスジェニックマウスの肝硬変モデルにて、初代培養された線維芽細胞の多くがLacZを発現しており、肝硬変由来の線維芽細胞には内皮細胞由来の細胞が含まれていることが確認できた。しかし、FACSでは、EndMTを来したと考えられる(LacZ陽性かつCD31陰性)細胞の増加がTie2-LacZマウスでは認められなかったが、Tie2-GFPマウスではEndMTを来たしたと考えられる(GFP陽性かつCD31陰性)細胞の増加が微量だが確認することができ、EndMTを少ないが確認できた。 血管新生の点からみた肝硬変症における脾腫大のメカニズム解明と制御:肝硬変の脾の腫大には、VEGFを介した血管新生が関連していると考え、VEGF受容体のチロシンキナーゼ活性を阻害することが知られているソラフェニブを投与された肝硬変症において、CTによる脾サイズおよび脾静脈系の変化を検討した。脾サイズは平均64.6cm2→53.4と17.0%縮小し(p=0.05)、脾静脈系は平均8,7mm→7.8と11.4%縮小し(p<0.01)、VEGFなど血管新生シグナルの制御が脾腫を改善させる可能性が示された。 摘出した肝硬変脾において、ARFIイメージによる非侵襲的な組織硬度測定を行ったところ、脱血後に脾硬度は著明に低下し、組織還流実験にて脾静脈圧と脾硬度は正の相関を認めた。脾硬度とうっ血が関連することが示され、脾のうっ血が脾硬度や脾腫大と関連していることが示された。 C型肝硬変のT細胞疲弊化における脾の関与:肝硬変脾ではCD4・CD8陽性細胞の疲弊化が進行し、大量の疲弊化リガンドを含む脾の摘出により末梢CD4・CD8陽性T細胞の疲弊化は改善した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非代償性肝硬変の生命予後の改善のためには、食道胃静脈瘤出血・門脈血栓・腹水貯留・肝性脳症・脾機能亢進症などの門脈圧亢進症の制御が重要である。門脈圧亢進症の成因として、肝内微小循環障害による肝内血管抵抗増大、門脈流入血流増大、肝脾相関が考えられおり、本研究では、肝硬変における微小循環障害ならびに肝脾相関の分子機序を解明し、肝内微小循環障害の改善のための脾機能制御を含めた革新的治療法や薬剤の開発することで、門脈圧亢進症だけでなく肝硬変症をも改善することを目的としている。 類洞内皮細胞機能障害におけるEndMTの関与についての研究:本年度は、内皮細胞由来の細胞が生涯にわたりLacZを発現するトランスジェニックマウスの肝硬変モデルにて、肝硬変由来の線維芽細胞には内皮細胞由来の細胞が含まれていることが確認できた。さらに、Tie2-LacZマウスおよびTie2-GFPマウス肝硬変から採取した類洞内皮細胞のFACSでは、EndMTは少数であるが起こっていることが判明した。以上のように、EndMTが肝硬変で起こりうる可能性を確認することができたので、ほぼ予定通りの進捗状況である。 血管新生の点からみた肝硬変症における脾腫大のメカニズムの解明と制御についての研究:肝臓癌のためにVEGF阻害剤を使用した臨床検体を用いた研究や臨床検体を用いた還流実験による脾うっ血から脾硬度が増すという実験より、VEGFなどの血管新生シグナルの制御が脾腫を改善させる可能性が示された。しかし、これを裏打ちするための肝硬変症ラットを用いた、門脈圧上昇→脾うっ血→VEGF発現増加の分子機序の解明実験が当該年度で終わらなかった為、来年度に実験モデルを用いた研究を行うことになったた。 C型肝硬変症のT細胞疲弊化において脾が関与していることが判明し、脾摘により改善することが示され、ほぼ予定通りの進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
類洞内皮細胞機能障害におけるEndMTの関与が、少ないことが示唆されたことより、in vitroとin vivoにおけるEndMTの関与についての乖離について検討を加えるとともに、EndMTを引き起こすシグナルにつて検討する。さらに、類洞内皮細胞の機能障害についての新たなメカニズムとして、門脈血栓も視野に入れ、類洞内皮細胞におけるFactor VIII発現について検討する。肝硬変症における門脈血栓の機序として、ATIIIなどの抗凝固因子の低下および凝固因子であるFactor VIIIの増加による過凝固状態が知られている。しかし、肝硬変症におけるFactor VIIIのcell sourceは不明であり、肝内微小循環障害の原因として、類洞内皮細胞におけるFactor VIII発現が関与しているか否かについて検討を開始する。Factor VIII発現は、門脈血栓の治療法へも展開できると考えている。まずは、実際に移植や肝切除で摘出した硬変肝および正常肝を用いて、肝硬変の類洞内皮細胞においてFactor VIIIが発現しているかどうか検討する。その後、マウス類洞内皮細胞に、shear stress、TGF-b、endothelinを負荷することで、Factor VIIIが発現するかどうか検討するとともに、その制御メカニズムを探索したい。 H27年度の結果より、実際の肝硬変における脾腫大にVEGFが関与している可能性が示された。脾のうっ血から脾腫大に至る分子機序として、うっ血による低酸素によりRho kinaseの活性化や、うっ血による血流低下からNO分泌が低下することにより、HIF-1αを介したVEGF発現が増加するとの仮説をたてている。本年度は、肝硬変症におけるソラフェニブ投与症例を増やしH27年度の結果を確認するとともに、肝硬変ラットを用いて、脾腫大の分子機序について検討する。
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Causes of Carryover |
血管新生の点からみた肝硬変症における脾腫大のメカニズムの解明と制御についての研究において、肝臓癌のためにVEGF阻害剤を使用した臨床検体を用いた研究や臨床検体を用いた還流実験による門脈圧から脾うっ血を来し脾硬度が増加するという実験より、VEGFなどの血管新生シグナルの制御が脾腫を改善させる可能性が示されたが、これを裏打ちするための肝硬変症ラットを用いた、門脈圧上昇→脾うっ血→VEGF発現増加の分子機序の解明実験が当該年度で終わらなかった為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
脾種の血行動態は、臨床的にもうっ血でることが判明したが、一般的に低酸素は血管内皮細胞にHIF-1αを誘導し、VEGF蛋白発現を増加させる(Jones MK, Kawanaka H. FASEB J 2002)。そこで、肝硬変症における脾腫のメカニズムとして、うっ血による低酸素によりRho kinaseの活性化や、うっ血による血流低下からNO分泌が低下することにより、HIF-1αが誘導され、脾内のVEGF蛋白発現が増加する可能性がある。本年度は、肝硬変ラットモデルを作成し、脾におけるVEGF発現の分子機序を明らかにし、VEGF receptor 抗体やRho kinase 阻害剤を用いた脾腫大のシグナルを制御することで、脾腫大、門脈圧亢進症、肝硬変症が改善するか否かを検討すために、繰り越した1,600,496円を実験動物、試薬の購入等に使用する。
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