2016 Fiscal Year Research-status Report
膵癌幹細胞の肝転移阻害を標的とした創薬開発に関する研究
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15K10183
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膵臓外科学 / 膵臓がん / がん幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の全体構想は膵癌幹細胞の肝転移機構を明らかにして新規治療法を開発することである。膵臓癌は癌死亡率の第5位にあり、早期診断が困難できわめて予後不良の疾患であり、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。我々は進行膵癌患者から20種類の膵癌幹細胞株を樹立し、CD133が癌幹細胞マーカーとなることを明らかにした (Shimizu et al. PLoS One, 2013)。また、正常膵組織幹細胞やヒト膵癌組織内の一部の細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにしてきた (Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。本研究では、我々の研究室で樹立した①初代ヒト膵癌幹細胞株と②マウス人工膵癌幹細胞株を使って初期の肝転移を再構築し、極初期の転移機構を分子レベルで解明し、転移を抑制する新規治療薬の開発を目指す。マウス組織幹細胞に遺伝子導入して作成したマウス人工膵癌細胞は肝転移を起こすことは確認したが、より効率良く肝転移を再現するため、extravasationに絞って門脈投与モデルを作成して時間依存性に転移が成立することを明らかにした。さらに、高肝転移株の作成も行った。また、皮下腫瘍形成後に、ヒト膵癌で主に用いる抗がん剤Gemcitabineをin vivoで投与して、抗がん剤耐性腫瘍を作成し、これから耐性株細胞を樹立することにも成功した。さらに、初代ヒト膵癌幹細胞株の抗がん剤Gemcitabineに対する耐性獲得としてKras-MEK-induced Matrix Metalloproteinase-10の増強が関与していることを報告した(Pancreas 2017)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、我々が樹立した①初代ヒト膵癌幹細胞株と②マウス人工膵癌幹細胞株を使って初期の肝転移を再構築し、転移機構を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発を目指す。平成28年度は、膵臓組織幹細胞に遺伝子導入して樹立したマウス人工膵癌細胞を経門脈的に投与して肝転移成立までのtime courseを検討した。その結果、3時間後には癌細胞が肝実質に到達し、14日後には肉眼的に確認可能な転移腫瘍を形成することが明らかとなった。転移腫瘍の詳細な組織学的解析では、線維の増生、転移腫瘍周囲の血管の関与、増殖シグナルの有無を検討した。Cortactin陽性のがん細胞を移植3時間後の肝臓において認め、Invadopodiaの関与を証明した。さらに、作成した皮下腫瘍にヒト膵癌の標準化学療法薬であるGemcitabineを反復投与して、Gemcitabine 耐性腫瘍を作ることに成功した。この腫瘍から耐性株を樹立した。Gemcitabine感受性親株に比べて耐性株は50%阻害濃度(IC50)が20倍以上であり、Gemcitabine 耐性能を獲得していることを確認した。さらに、経門脈的に細胞移植するとGemcitabine感受性親株に比べて耐性株では肝転移能が著明に増大していることを明らかにした。これに加えて、さらに、初代ヒト膵癌幹細胞株の抗がん剤Gemcitabineに対する耐性獲得としてKras-MEK-induced Matrix Metalloproteinase-10の増強が関与していることを報告した(Pancreas 2017)。以上より、「研究目的」に記載した内容が順調に達成できていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、我々が樹立したマウス人工膵癌幹細胞株を使って初期の肝転移を再構築し、転移機構を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発を目指すことである。樹立したマウス人工膵癌細胞株はヒト膵癌細胞と腫瘍形成能・転移能・抗がん剤感受性など多くの点で類似していた (論文投稿中)。また、膵癌に対する抗がん剤Gemcitabineを投与することにより、ヒトと同様に抗がん剤耐性株を作成した。Gemcitabine感受性親株に比較して耐性株はより肝転移能が高いことも明らかになった。最近、腫瘍の転移指向性を癌細胞が分泌するエクソソームが決定しているとする論文が報告された。今後は親株と耐性株のマウス膵癌細胞の遺伝子解析や膵癌細胞から分泌されるエクソソームを解析することにより、肝転移に関与する詳細な分子メカニズムを明らかにする予定である。また、血管内皮細胞と膵癌細胞との相互作用に注目して肝臓における癌細胞のextravasation機構についてもin vitroやin vivoで検討し、転移阻害薬の開発につなげたい。血管内皮細胞のフィロポディア形成や癌細胞のinvadopodiaに注目して解析を進める予定である。さらに、初代ヒト膵癌幹細胞株の抗がん剤Gemcitabineに対する耐性獲得としてKras-MEK-induced Matrix Metalloproteinase-10の増強が関与していることを報告した(Pancreas 2017)。さらに、マウス人工膵癌株でも耐性獲得によりMatrix Metalloproteinase-10の増強を確認していることから、患者血中のMatrix Metalloproteinase-10が耐性獲得とバイオマーカーになる可能性についても解析する予定である。
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Causes of Carryover |
年度末に物品費として計上した消耗品(マウスの飼育用ケージラック)が、当初の見積もり額を超えてしまったため、他の経費で建て替えた。そのため、次年度使用額として51,114円が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主として物品費として消耗品の購入に使用する予定である。
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