2016 Fiscal Year Research-status Report
hANPによる心筋細胞内PPARγ賦活系の解明と心筋虚血再灌流障害の抑制への応用
Project/Area Number |
15K10206
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川本 俊輔 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (20400244)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋木 佳克 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50372298)
本吉 直孝 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (40375093)
河津 聡 東北大学, 大学病院, 助教 (80633685)
堀井 明 東北大学, 医学系研究科, 教授 (40249983)
阿部 高明 東北大学, 医工学研究科, 教授 (80292209)
西條 芳文 東北大学, 医工学研究科, 教授 (00292277)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 心筋虚血再灌流 / hANP / PPARγ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、心筋虚血再灌流障害におけるhANPの保護反応系の中に、一部PPARγを介した経路が関わることを仮説として、ブタ心筋虚血再灌流モデルを用いてその証明を試みたものである。 当初はブタ心筋虚血再灌流モデルの確立に難渋したが、試行錯誤を経て、心筋虚血中のブタの生存率を上昇させることができた。その上で、合成ANPであるhANP (human atrial natriuretic peptide) を投与した群・投与しない群に分けて実験を行い、血行動態の測定および心筋組織の評価を行った。両群について当面の目標の頭数の実験を遂行し、血行動態の比較を行ったところ、両群で虚血後にdP/dTの低下が見られたが、虚血再灌流4時間後における群間の差はみられなかった。その他、血圧や心拍数・中心静脈圧・心拍出量・左室拡張終期圧といったパラメータの解析を行った。虚血再灌流4時間後のhANP投与群の血圧、心拍出量はhANP非投与群よりも低値であった。心筋組織は虚血中心部、辺縁部、非虚血部の3領域から採取した。この組織においてqRT-PCRを行い、PPARγおよびその下流分子であるLXRα (Liver X receptor α) のmRNA発現量の解析を行った。またPPARγ蛋白の発現をWestern blotting法にて解析した。その結果、hANP投与群において虚血中心部におけるPPARγ mRNAおよびPPARγ蛋白がhANP非投与群のそれよりも多く発現していることが分かった。このことは、心筋虚血再灌流障害組織においてhANP投与がPPARγ賦活系に関与することを示すものであり、同系統に焦点をあてた報告は他にない。具体的反応系の解明や他の因子との相関の考察といった部分を今後発展・検討していく必要あるものの、虚血後の心筋障害を改善させるストラテジーの一助となり得る知見を得たこととなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はブタ心筋虚血再灌流モデルをつくるところから始まり、試行錯誤を経て麻酔法や心筋虚血の方法を確立した。それをもとに、hANPの投与・非投与による2群について心筋虚血再灌流の実験をすすめ、各々の群についてほぼ目標とする頭数のデータを集めることができた。血行動態の指標として、左室内のdP/dTやLVEDPを測定し、比較を行った。また分子的評価として、虚血部、辺縁部、非虚血部から心筋祖域を採取し、PPARγmRNAとPPARγ蛋白の発現を評価した。その結果、血行動態の明らかな差はみられなかったが、hANP投与群の虚血部心筋組織におけるPPARγの発現は、hANP非投与群と比較して有意に保たれていることが示された。これをまとめて論文化し、ここまでの結果を発表することができた。hANPからPPARγへの詳細な経路や反応過程の解明やPPARγ antagonistを用いた検討までは至らず、今後まだ研究をすすめていく余地はあるものの、仮説の一部を証明することができ、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
心筋虚血再灌流障害組織において、hANP投与がPPARγ賦活系に関与することを示す知見を得たが、具体的 反応系や他の因子との相関に関してはいまだ検討の余地がある。この解明をすすめるために、介在する分子の動きを測定したり、PPARγ antagonistの投与等を行って、PPARγを介した経路がとの程度心筋の保護に寄与するものかを調べていく必要がある。また、その前提としてhANP投与による心機能の保持・改善をより具体的に示す必要があり、hANPの投与量や投与法、心筋虚血再灌流の方法、心機能の評価法、観察期間等に関し改変を検討していく。具体的には、ANP受容体刺激により増加するcGMPを測定したり、その下流にある酵素のを評価し、実際にhANP投与で増加するのか、あるいはそれらをblockすることでPPARγの賦活効果が妨げられるのか、といった検討を考慮している。また、これまでの実験系統は急性期実験であったが、可能であれば虚血再灌流後慢性期まで生存させ、hANP投与の有無による慢性期の心機能の評価・比較を行い、急性期にみられる反応がどこまで慢性期影響を及ぼすかを検討したい。これにより、hANPの心筋虚血再灌流障害に対する保護効果がより具体的に示される可能性がある。あるいは人工心肺を用いて心筋の全虚血を生じさせ、これにhANPの投与とPPARγがどう関わるかについて検討することで、更なる知見が得られる可能性がある。これらの検討をもとに、より心臓血管外科の臨床に近い設定での実験系を確立し、心筋保護に関する根拠を得た上で、心停止下の手術や心移植といった心筋虚血再灌流障害が大きく関わる分野の臨床応用につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度内の予定使用頭数分に加え、確立した実験手順の中でもなお不整脈で失う例があり、その分の頭数を加えた数が必要であった。他、麻酔薬・試薬・分子評価のためのキット・抗体等を購入し、ほぼ予定額を消費した。ブタの飼育日数によっても経費が変わり、試薬の変更等もあり、微調整によっても約1万円の端数が生じている。これを次年度に繰り越すこととする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
PPARγ antagonistを用いた実験系や慢性期実験を行うにあたっては、少なくとも数頭ずつのブタが必要であり、不整脈で死亡するブタの分も含めた経費が必要である。ブタの飼育費も日数分必要になる。qRT-PCRやWestern blottingによる分子評価に関しても適宜試薬の購入が必要であり、場合により測定機器の購入が必要となる場合がある。採血サンプルの測定費用、病理組織スライド・免疫染色に関わる費用もあり、こういった経費に配分額をあてる見込みである。
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Research Products
(1 results)