2015 Fiscal Year Research-status Report
虚血および再灌流時の脳組織代謝変化のオミクスによる包括的解析
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15K10302
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
細田 弘吉 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90403261)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
篠山 隆司 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (10379399)
甲村 英二 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30225388)
篠原 正和 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80437483)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳虚血 / 脳代謝 / メタボロミクス / トランスクリプトミクス / ペントースリン酸経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて,ラット中大脳動脈閉塞2時間後脳虚血組織のメタボローム解析を行い92種の代謝物を網羅的に分析すると,主成分分析のスコアプロットやHeatmapで虚血群と対照群が明瞭に分離された.多変量解析で脳虚血特異的に変化する代謝経路を探索したところ,ペントースリン酸経路の亢進,ケトン体の増加,GABA shuntの亢進,分岐鎖アミノ酸やヒポキサンチンの増加などが示唆された. また,マイクロアレイ解析で脳虚血2時間後に変化する遺伝子セットを探索したところ,Toll-like receptor signaling pathwayとMAPK signaling pathwayが最も亢進していた.このMAPK signaling pqthwayの中でも,6番目に亢進しているheat shock protein 27 (HSP27)は,ペントースリン酸経路の律速酵素であるglucose 6-phosphate dehydrogenase (G6PD)の活性を上昇させる因子であり,メタボローム解析でのペントースリン酸経路の亢進を示唆する所見と合わせて考えると注目に値した.この経路はNADPHを産生することにより還元型グルタチオンの再生産を促進し,抗酸化状態を維持する.immunobolotでは,虚血時にはG6PDの発現量は変化しないが,リン酸化HSP27 (pHSP27)の増加によりG6PDの酵素活性が上昇することが示唆された.さらに,G6PDの活性を測定すると,HSP27のリン酸化の進行に一致するように,脳虚血2時間後に約50%上昇し,NADPH/NADP+ ratioも約100%上昇していた.以上より,虚血時にHSP27のリン酸化が起こりG6PDの活性を亢進させてNADPHを増加させ活性酸素種に対処するという内因性抗酸化システムの存在が示された
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のごとく,オミクス解析により,脳虚血の際に特異的に変化するいくつかの代謝経路を見出すことが出来た.さらに,ペントースリン酸経路にかんしては,律速酵素であるG6PDがHSP27により活性化されることを強く示唆する所見を得て,新たな内因性保護機構を発見した可能性があり,ほぼ予定通りに研究は進行している. しかしながら,脳虚血後の再灌流実験の施行も年度内に予定していたが,これは実験ラットの匹数が多かったためにぎりぎり間に合わず,2016年4月の最終週の施行となった.
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Strategy for Future Research Activity |
虚血時にHSP27がリン酸化され,これによりペントースリン酸経路が亢進して内因性虚血保護機構として働くという仮説を検証するために,HSP27のリン酸化メカニズムの阻害薬や亢進薬を用いて詳細に検討していく予定である.具体的には,ataxia teleangiectasia mutated (ATM) kinaseやprotein kinase DがHSP27のリン酸化酵素の候補であり,虚血時にどの経路が働いているのかを確認するために其々の阻害薬(ATMの阻害薬 KU-55933,PKDの阻害薬 CID755673)による変化を検証する.また,HSP27を誘導するgeranylgeranylacetone,celastrol, FLZ,carbenoxoloneなどの薬剤の投与下での脳虚血時の代謝変化や梗塞サイズの変化,機能予後に対する影響を調べる.これらの実験は全て,虚血時のみではなく,再灌流の影響も含めて検討する予定である.
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Causes of Carryover |
虚血後再灌流実験のラットの匹数が予想よりも多く必要となり,年度内に間に合うかどうかがハッキリしなかったために,その分のラットの購入飼育費およびガスクロマトグラフィー質量分析器による解析費用(約40万円)を前倒し請求した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のごとく,予想より,虚血後再灌流実験に時間と手間がかかったが,2016年4月最終週に施行で,約1ヶ月の予定の遅れに過ぎず,今後の1年間で十分に取り戻すことが出来,実験計画に大きな支障はきたさないと考えている.
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