2015 Fiscal Year Research-status Report
内因性一酸化炭素による脳梗塞時の代謝血流維持機構の解明
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15K10315
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森川 隆之 慶應義塾大学, 医学部, 講師(非常勤) (80465012)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 一酸化炭素 / 脳血流代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は脳でヘムオキシゲナーゼ-2 (HO-2) によって産生されている一酸化炭素 (CO) の役割を明らかにすることを目的とする。先行研究の成果から、HO-2遺伝子欠損 (KO) マウスの脳のアデノシン3リン酸 (ATP) 濃度は、野生型マウスと比較して皮質や海馬において高いことが示唆されている。そこでまずATPの主要な産生系であるグルコース代謝を含めた、物質代謝におけるCOの役割を検証するため、HO-2 KOマウスの脳の網羅的代謝解析を行った (野生型マウス:n=9, H0-2 KOマウス:n=9)。そのクラスター解析の結果、定常状態においてグルコース6-リン酸やフルクトース6-リン酸を初めとした解糖系、またイソクエン酸や2-オキソグルタル酸といったクエン酸回路の代謝産物が、野生型マウスと比較してHO-2 KOマウスで高値を示すクラスターに含まれることが分かった。このことからCOは定常状態において解糖系やクエン酸回路の流速を抑制していることが予想された。一方でHO-2 KOマウスの脳のATPが高値を示す要因のひとつとして、CO産生の減少による脳血流量の増加が原因であることも考えられた。この仮説を検証するため、多光子レーザー顕微鏡を用い、マウスの大脳皮質の前毛細血管細動脈の血流速度を測定した (野生型マウス:n=9, HO-2 KOマウス:n=9)。その結果、野生型マウスと比較して、HO-2 KOマウスでは血流速度が速いことを示すデータが得られ、COが脳局所において血流を抑制する働きをしていることが示唆された。HO-2から産生されるCOは低酸素時における予備能を付与する役目を担っていることが先行研究の結果から予見されているが、今回得られた知見はこのメカニズムの全貌を明らかにするための重要な布石となるという意義を持つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は「定常時の脳では、COはグルコースの代謝経路を阻害することでATP産生を抑制すると同時に、脳血流を抑制している。」という仮説の正否を明らかにすることを目標とした。HO-2 KOマウスの脳のメタボローム解析の結果から、CO産生酵素であるHO-2の欠損マウスの脳では、野生型マウスと比べて、解糖系やクエン酸回路において、グルコースの代謝が亢進していることを示唆する知見が得られた。また、HO-2 KOマウスの局所における脳血流の測定から、COが脳血流を減弱させている可能性が示された。これらの知見は、仮説を否定するものではないと言える。またCOが脳血流を減弱させるメカニズムとして、COがグルコースの代謝産物であり血管拡張因子である二酸化炭素 (CO2) の産生を抑制していることを予想しその検証を行っている。未だこの検証は終了していないものの、この仮説を裏付けるデータも得られつつあることから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず「定常時の脳では、COはグルコースの代謝経路を阻害することでATP産生を抑制すると同時に、血管拡張因子であるCO2の産生を減少させ、血流を抑制している。」との仮説の正否を明らかにすることを目標とする。脳で単位時間内にグルコースが代謝されて産生されるCO2の量を野生型マウスとHO-2 KOマウスとで比較するため、13C-グルコース投与10分後のマウスの脳の13CO2の濃度をガスクロマトグラフ質量分析計 (GCMS) で測定している。これまでのところ、投与する13C-グルコースの濃度や、投与後の灌流時間の検討が不十分と考えられるため、この検討を行うことで、至適な条件でデータ採取を試みる。これらの検討により定常状態におけるCOの役割を明らかにすると同時に、脳梗塞等の病態時におけるCOの役割の検証を始める。
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Causes of Carryover |
当該年度の実験計画に含まれる、HO-2 KOマウスの脳のCO2産生能を検証が現段階において進行中である。したがって、この一連の実験に必要な13C-グルコース等の試薬や、GCMSでのCO2の測定に必要なヘリウムガス等の消耗品の購入に予定していた額の使用も半ばであるため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
マウス生体組織のCO2含有量の測定のため、13C-グルコース (約30,000円/g)などの試薬、ヘリウムガスボンベ (約35,000円/本)等のGCMS消耗品に用いる。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] The EGF receptor promotes the malignant potential of glioma by regulating amino acid transport system xc(-)2016
Author(s)
Tsuchihashi K, Okazaki S, Ohmura M, Ishikawa M, Sampetrean O, Onishi N, Wakimoto H, Yoshikawa M, Seishima R, Iwasaki Y, Morikawa T, Abe S, Takao A, Shimizu M, Masuko T, Nagane M, Furnari FB, Akiyama T, Suematsu M, Baba E, Akashi K, Saya H, Nagano O.
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Journal Title
Cancer Research
Volume: in press
Pages: in press
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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