2015 Fiscal Year Research-status Report
高圧・高酸素による軟部組織外傷の治癒促進と作用機序の解明
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15K10433
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
柳下 和慶 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 准教授 (10359672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 剛 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 助教 (80447490)
榎本 光裕 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (90451971)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高気圧酸素 / 筋損傷 / 筋再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、最初に高圧・高酸素環境が損傷環境にどの程度影響を与えるか、下腿筋損傷モデルラットを作製して動物用高気圧チャンバー内での下腿筋組織内での酸素分圧の変化を生理学的に評価した。ラット右後肢腓腹部に重錘を落下させ下腿筋損傷モデルを作製した。酸素分圧モニタリングシステムを設置した動物用高気圧チャンバーを用いて酸素加圧2.5絶対気圧、120分施行した。筋内酸素濃度は、損傷後30分で著明な低下を認めていた(約15mmHg)。HBOを施行していない対照群では、30時間かけて損傷前酸素濃度(約45mmHg)に回復したのに対し、HBO群ではHBO直後から酸素濃度の有意な改善が得られた(p<0.0001)。経時的な定量結果から1回のHBOによって酸素濃度は損傷30時間後まで維持されていることが明らかとなった。 さらに動物用CTを用いて下腿体積を経時的に算出することによって損傷後の下腿腫脹の評価を行った。損傷6時間、24時間、3日、7日後において動物用CTで下腿を撮影し、再構成画像を基にして下腿体積を計測した。1日1回、連日5回HBOを施行している中で評価を行った。損傷前の下腿体積はHBO群と対照群で有意差はなかった。損傷6時間後に両群とも体積値は最大となったが有意差は認められなかった。24時間後(p=0.002)、損傷3日後(p=0.04)にHBO群で有意な体積低下を認めた。損傷後5日、7日では2群間に有意差はなかった。損傷後の最大腫脹から損傷前までの腫脹回復は対照群で5日を要したのに対し、HBO群で3日であった。よって骨格筋圧挫損傷後のHBO介入が腫脹減少と低酸素改善に有効であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、酸素分圧モニタリングシステムを利用して高圧・高酸素環境下での組織内酸素分圧の測定が可能となり、1回のHBOによって酸素濃度は損傷30時間後まで維持されていることが明らかとなった。通常の酸素投与とは異なり加圧環境下での酸素投与が損傷環境に影響を与えていることが推測される。また、定量的に下腿腫脹がHBOによって減少する効果が得られていることから初年度として本研究がおおむね順調に推進されていると考えている。しかし、本申請書内に記載されている背側皮弁モデルラットの作製や異なる高圧・高酸素条件検討まではできなかった。次年度は、最適な治療プロトコールの確立のためにも損傷組織内の酸素分圧の計測データを基にして酸素、圧力、時間のパラメータを変化させて検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
高圧・高酸素環境が損傷骨格筋にどの程度影響を与えるかが、今年度の結果から明らかとなった。しかし、腫脹軽減のメカニズムについては明らかになっておらず、申請書に記載されているような好中球、マクロファージを指標にした損傷領域の評価や創傷治癒に必要なHIF、ROS、VEGFなどにも注目して解析を進めていく予定である。申請書に記載しているラットparabiosis modelの作製と損傷モデルの作製とFACSを用いた細胞のソーティング解析についても研究を推進していく予定である。また、高圧・高酸素環境について異なる条件設定を行い、創傷治癒促進に有利な条件を検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
動物実験にラットを使用しているが、動物実験施設での酸素使用に制限があったため酸素使用の消耗品が当初の使用予定よりも少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験用ラット購入、飼育が研究費使用の中心となる。年間で予備実験や予期せぬ死亡を含めると100匹程度必要となる。また、高気圧チャンバーのメンテナンス費用や酸素プローベの使用による改良、酸素使用について購入が必要となる。組織染色には、HE染色などの一般的な染色液のほかに筋細胞や筋衛星細胞それぞれに特異的に反応する抗体が解析に必要であり、同部位を可視化するには蛍光標識付きの二次抗体が必要である。昨年度まとめたデータについては積極的に学会発表を行い、研究計画を遂行することでデータを追加し論文として成果をまとめる。
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