2016 Fiscal Year Research-status Report
脳波ポワンカレプロットのヒステリシス解析を用いた即応的麻酔深度推定法の開発
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15K10518
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
林 和子 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員講師 (40285276)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 非線形解析 / poincare plot / 脳波 / 麻酔深度 / 意識 / return plot / 複雑系 / カオス |
Outline of Annual Research Achievements |
Poincare plot(ポワンカレプロット)解析は、信号を現時間信号値と遅延時間信号値との対で順次描出し、その分布パターンを検討する非線形解析法である.一般にランダムで無秩序な信号のPoincare plotは卵丸状の分布を示すが、信号の線形度が増加するにつれて、細長い分布を呈する.私たちは、脳波Poincare plot分布の長軸(y=x軸)方向への先鋭度をSD1/SD2として定量化する(Poincare index)ことで、脳波信号の乱雑度評価から、麻酔深度を測定する方法を研究してきた.本研究においては、このポアンカレプロット非線形解析法を脳波に応用して、複雑系システムである脳神経活動のヒステリシス(履歴効果)からその秩序性を定量解析し、麻酔薬の種別に限定されない統一的な麻酔深度測定法を確立することを目的の一つとした.BISモニターより前頭誘導脳波を導出し、128Hzでアナログ/デジタル変換サンプリングして、ベースラインドリフト補正とバンドパスフィルター(0.5Hz-30Hz 成分抽出)処理後の前処理後の脳波信号を順次2 次元平面上にポワンカレプロットして、プロット集団分布の中心から,長軸(y=x 軸)方向のちらばりの標準偏差(SD2)とそれに直角に交わる短軸方向のちらばりの標準偏差(SD1)、及びその比率(SD1/SD2)を定量化に用いた。この比率(SD1/SD2)をpoincare indexとして表示した. 本年度は、麻酔薬の種別を超えた様々な全身麻酔薬の麻酔作用が、poincare indexに反映されるかを確認する目的で、制吐作用目的で投与されるドーパミンD2受容体拮抗薬であるドロペリドールのセボフルラン麻酔への影響を、Poincare indexを用いて検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麻酔中の脳波データを記録して、事後に、または、リアルタイムに、解析した結果から、ポワンカレプロットの変動指標(SD1/SD2、Poincare index)が、セボフルラン、デスフルラン吸入麻酔、及びプロポフォール静脈麻酔濃度とよく相関することを前年度までに明らかにした。(Clin Neurophysiol 2015; 126:404-11, Anaesthesia 2015; 70:310-17) 本年度はドーパミンD2受容体拮抗薬であるドロペリドールのセボフルラン麻酔への影響を、Poincare indexを用いて検討した。60名において、麻酔導入後、セボフルラン1%、レミフェンタニル0.1μg/min/kgで麻酔維持し、安定したところで、ドロペリドール2.5mgを経静脈的に投与し、ドロペリドール投与前後で、Poincare Indexの変化を、BIS値、Spectral edge frequency 95 (SEF95)と共に検討したところ、BIS, SEF95の平均(標準偏差)は、ドロペリドール投与前の58.9(5.3)、17.5(2.4) Hzから、ドロペリドール投与10分後には、それぞれ、42.2(6.4)、13.0(2.1)Hzと有意に低下した(P<0.05). 一方、ドロペリドール投与前のPoincare Indexの平均(標準偏差)は、0.258(0.049)であったが、ドロペリドール投与10分後には、0.196(0.072)へと有意に低下した(P<0.05).以上から、ドーパミンD2受容体拮抗薬においても、麻酔深度の変動が、Poincare indexに反映されることが明らかとなった.この結果は、今春の神経麻酔集中治療医学会において発表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本麻酔深度算定法は、さまざまな麻酔薬一般に応用できる可能性があり、現在までに、吸入麻酔薬(デスフルラン、セボフルラン)、静脈麻酔薬(プロポフォール)、ドーパミンD2受容体拮抗薬に関して、本法応用の適合性を検証した.今後、更に多種の作用機序の異なる麻酔薬を用いて、Poincare Indexの適合性を検討すると同時に、年齢的差異に関しても検証を加えたい. また、試作したPoincare Indexのリアルタイムモニターに関しても検証を続行し、これらから、統一的な汎用性のある麻酔深度推定法を確立する.
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Causes of Carryover |
本課題である脳波測定ポワンカレ指標算出用のパーソナルコンピュータと解析用の科学計算演算アプリケーションソフト(MATLAB)の新規ライセンスを科学研究費で購入予定であったが、長期的な見地から、引き続き、既に所有しているパーソナルコンピュータと既存の古いライセンスを用いて作業を行い、次年度に方向性が決定した段階で、最新バージョンの高性能の解析用PCと最新バージョンのMATLABライのセンス及びオプションを購入する方が、研究の応用展開により有効と判断した.そのため、次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度までに施行、試作してきたリアルタイム試作機、及び解析法を踏まえて、新規に解析用の高性能コンピュータと解析に必要なオプションを含めた最新バージョンのMATLABライセンスを取得し、研究を展開してゆく.また、海外学会を含めた学会発表、論文発表を行う予定である.
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