2015 Fiscal Year Research-status Report
三環系抗うつ薬中毒に対する脂肪乳剤の有効性-アルカリ化療法との比較検討
Project/Area Number |
15K10519
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
松浦 正 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90619793)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 三環系抗うつ薬 / 脂肪乳剤 / ランゲンドルフ灌流実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
モルモット摘出心を用いて、ランゲンドルフ灌流実験を行った。三環系抗うつ薬アミトリプチリンを灌流液に溶解し、その陰性作用に対するアルカリ化と脂肪乳剤の効果を定量的に比較検討した。ヘパリン1000単位とペントバルビタール(120 mg/kg)の腹腔内投与により十分な麻酔を行ったうえで、肋骨を切断し心臓を摘出した。摘出した心臓はすぐに4℃以下に冷蔵された心停止液(NaCl 120 mM, KCl 30 mM)に入れて心停止させ、大動脈をトリミングした上でランゲンドルフ法により逆行性の心臓灌流を開始した。灌流液は95% O2 - 5%CO2でバブリングしたKrebs-Henseleit液を標準液とした。脂肪乳剤としてはイントラリピッド輸液20%を使用し灌流液に対して5 - 20%の割合で混合し1-4%リピッド溶液と表記した。アルカリ化溶液は、NaHCO3濃度を33 mMに上げてpH 7.55とした。測定項目は心拍数(HR),左室駆出圧(LVDP), ECGでのQRS時間とした。 アミトリプチリン(1-10 μM)は、濃度依存性にHR,LVDPを抑制しQRS時間を延長させた。次にアルカリ化溶液とリピッド溶液の効果を検討した。まずアミトリプチリンを15分間灌流した後に、同濃度のアミトリプチリンを溶解したアルカリ化溶液またはリピッド溶液を灌流した。アルカリ化溶液は、1-5μMのアミトリプチリンによる心抑制を改善させた。しかし10μMのアミトリプチリンによる心抑制には効果がなかった。これに対して脂肪乳剤は検討した最小濃度5%でも1-10μMすべの濃度のアミトリプチリンの心抑制に対して回復効果を示した。その効果はアルカリ化溶液よりもはるかに大きかった。これらの結果は、アミトリプチリンの心毒性に対して脂肪乳剤はアルカリ化療法よりも有効である可能性を示唆すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していたランゲンドルフ灌流実験での検討はほぼ終了した。予想された通り、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)による心抑制に対して脂肪乳剤は著明な回復効果を示した。従来から提唱されているアルカリ化療法よりも優れている可能性がある。通常ランゲンドルフ灌流実験では電解質液を灌流液に用いるので、薬剤の蛋白結合分画については検討できない。そこで血清を用いた灌流実験を行ったが、灌流開始5分後仔ウシ血清を灌流したところ摘出心は心停止に至った。原因は定かではないが、異種動物の血清を灌流したことが原因かと推測された。そのため血清を用いた実験は実行困難である。血清を用いた蛋白結合率に関する検討はできないが、その他の実験については予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、モルモットの単離心筋細胞を用いたパッチクランプ実験法によりナトリウム(Na+)チャネルの記録を行う予定である。三環系抗うつ薬による心抑制の主因は心筋のNaチャネル抑制と考えられており、アミトリプチリンが濃度依存性に心筋細胞Na+チャネルを抑制することは過去に報告されている。本研究では、アミトリプチリンによる心室筋細胞Na+チャネル抑制に対するアルカリ化液とリピッド液による回復効果を比較検討する。その結果により、両療法の発現速度や効果持続時間など含め多角的に心抑制改善効果を比較検討することができる。また両療法の機序解明にも繋がると考えられる。
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Research Products
(4 results)