2016 Fiscal Year Research-status Report
癌細胞のアポトーシス誘導性から評価した癌患者に最適な麻酔薬の探索
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15K10527
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Research Institution | Kyushu University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
鬼塚 信 九州保健福祉大学, 保健科学部, 教授 (20264393)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プロポフォール / 抗癌作用 / ミトコンドリア / アポトーシス / プロトノフォア / プロトントラッピング / 脱共役作用 / ミトコンドリア電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年プロポフォールが抗癌作用を有するという文献が散見されるようになったが、その機序は不明である。そこで、プロポフォールのミトコンドリアへの影響を中心とした抗癌作用機序を検証した。 方法:Hela細胞を検体とした。アポトーシスについて、DNAフラグメンテーションを電気泳動法で、カスパーゼ活性を合成基質法で測定した。プロポフォールのミトコンドリアへの影響を検証すべく、ミトコンドリア電位、ミトコンドリア電位を形成する細胞内およびミトコンドリアそして、細胞膜内外それぞれのpH、ミトコンドリアカルシウムイオン濃度を細胞内イメージング法で検証した。 結果:プロポフォールは、癌細胞の増殖を濃度依存性に抑制した。プロポフォールは、ミトコンドリア電位を有意に脱分極するとともに(JC-1蛍光比 Control 0.3+-0.18, 0.001%: 0.84+-0.52, 0.01%: 2.17+-0.62)、ミトコンドリアpH 勾配 (pH;control: matrix: 8.4+-0.35, inter membrane: 7.9+-1.0, propofol 10uM: matrix: 7.9+-0.3, inter membrane: 8.1+-0.4)および細胞膜内外のpH 勾配を消失させた。そしてミトコンドリア経路のアポトーシスを誘導した。 結語:プロポフォールは、プロトノフォアとして作用し、プロトントラッピングにより細胞内およびミトコンドリアの水素イオン濃度(pH)勾配を消失することで、ミトコンドリア電位を消失させるといった脱共役作用により、癌細胞にミトコンドリア経路のアポトーシスを誘導し、これがプロポフォール注入症候群の原因だけでなく、プロポフォールによる抗癌作用の一機序なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題である麻酔薬(プロポフォール)の抗癌作用について、プロポフォールがプロトノフォアとして作用し、ミトコンドリアにおける脱共役作用により、癌細胞においてミトコンドリア経路のアポトーシスを誘導するという機序まで解明し得た。本研究結果は、ミトコンドリアが癌細胞の弱点の一つであり、プロポフォールを含むプロトノフォアなどの脱共役剤が抗癌作用を有する可能性もあり、ミトコンドリアをターゲットとした抗癌作用という本研究結果を踏まえた今後の新たな研究課題も見いだせた。これらの研究結果は、2017年度日本麻酔科学会(神戸市)にて発表予定である。以上の結果を踏まえ、本研究は順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究結果は、ミトコンドリアが癌細胞の弱点の一つであり、プロポフォールを含むプロトノフォアなどの脱共役剤が抗癌作用を有する可能性を見いだした。はたして、正常細胞と癌細胞との間で、こうしたミトコンドリアによる抗癌作用に、腫瘍特異性があるのかを現在、正常細胞(正常ヒト血管内皮細胞)および癌細胞を用いて、比較検討中である。癌細胞はミトコンドリア機能は抑制されているという説がある(ワーンブルグ効果)が、この一因として、アポトーシスが誘導されないためと仮設する。そこで、このワーンブルグ効果との関連も含めて、今後の課題としては、なぜ、癌細胞はミトコンドリアの脱分極などミトコンドリアストレスによって、アポトーシスが誘導されやすいのかを検証したい。
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Causes of Carryover |
研究機器を考究する際、カタログ上の定価よりも安価に購入できた為、その差額が余剰となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究に必要な美品は、この科研費でおおむね調達できた、残金は、次年度において、薬剤購入に使用する。
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