2016 Fiscal Year Research-status Report
スピンメタボロミクスに関する基礎的検討および臨床応用
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15K10539
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
新宮 千尋 大分大学, 医学部, 准教授 (30295191)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳丸 治 大分大学, 福祉健康科学部, 教授 (40360151)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | NMRメタボロミクス / ESRメタボロミクス / 血漿 / パルスプログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
メタボロミクスは生体内の代謝産物を網羅的に解析することが可能である。従来は、ガスクロマトグラフィ(GC)や高速液体クロマトグラフィ(HPLC)などによる解析が行われてきたが、試料の前処理が必要であり,臨床現場における応用は困難であると考えられてきた。しかし,核磁気共鳴法(NMR)はGCやHPLCと比較して試料の調製が極めて簡便で、かつ非破壊的に測定することができる。 また、電子スピン共鳴法(ESR)もNMRと同様に試料の調製が簡便であり、さらにベッドサイドでのモニタリングが可能である。また,ESRはフリーラジカル種を直接観測できる唯一の測定手段である。ESRによるメタボロミクスが確立できれば、過大侵襲手術患者や敗血症などの重症患者において発生するとされるフリーラジカル種のリアルタイムでの経時的な測定や病態の把握,治療効果の判定などへの応用が期待できる。本研究は、ヒト由来の試料を用いて、NMRメタボロミクス、およびESRメタボロミクス(スピンメタボロミクス)を行うために必要な基礎的情報を得ること、及びそれらの臨床での応用の基礎的技術を確立することを目的とする。 初年度にメタボロミクス用解析プログラムを導入したのに続いて,2年目の平成28年度にはラットの血漿を検体として,NMR解析のパルスプログラムの検討を行い,これまでに蓄積した健常人ボランティアの新鮮尿および血漿のNMRメタボロミクスで用いるべきパルスプログラムを決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【NMRパルスプログラムの検討】NMR分光器(AVANCE-400,Bruker Biospin)にてラット血漿(pH7.4に調整,内部標準TMPを添加)の1Hスペクトルを測定した。血漿には軽水に由来する大量の1Hが含まれ,この巨大な信号を抑制しなければ血漿中の代謝物由来の微小な信号を観察できない。そこで,メーカー標準の測定アプリケーションTopSpin®の水消しパルスプログラムを検討した。まず,軽水由来の1Hを事前飽和させる基本的なプログラムpr1d(presaturation, 1-Dの意)と2次元NMR法の一種であるNOESY法を応用したnoesypr1dプログラムを比較検討したところ,noesypr1d の方が良好な水消し効果が得られた。しかし,両者とも脂質蛋白に由来する基線の上昇がみられ,これと重なる信号の同定および定量が困難であった。基線の上昇を抑制する効果のあるcpmgpr1dプログラムでは,pr1dやnoesypr1dよりも基線の上昇が抑制されたスペクトルが得られ,かつ水消し効果も良好であった。一方,限外濾過フィルタによる高分子量代謝物(MW > 1000)の除去を試みたところ,基線の上昇は抑制されたがフィルタに由来する新規の信号が多数認められたため,この方法は不適であった。超遠心(10,000 g or 15,000 g)による高分子量代謝物の沈降除去も試みたが,基線の上昇に対しては無効であった。以上の結果より,血漿サンプルに対してはpH調整と内部標準の添加以外の前処理は行わず,cpmgpr1dプログラムによる水消しと基線の上昇抑制が,本研究の測定に最も適切であると結論した。 【血液中フリーラジカルの測定】大型動物の心臓手術時の新鮮全血を直接ESR分光器で測定し,血液中のアスコルビン酸ラジカルを検出することに成功した。手術の各フェーズにおけるデータを蓄積中である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に当たる平成29年度には,これまでに採取した健常成人の血漿および尿の標本のNMR解析を進め,続いて当初の計画通り,周術期の患者から採取した血漿および尿のNMRメタボロミクスを進めていく。並行して,周術期の患者から採取した新鮮全血中のフリーラジカル(アスコルビン酸ラジカル)の測定を行う。
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Causes of Carryover |
サンプル血漿中の代謝物に由来する1Hスペクトルを最適な状態で観察するため、水消しおよび基線上昇を抑制する効果の高いNMRパルスプログラムの選定に、思いの外時間を要した。また、本学所有の核磁気共鳴装置の液体窒素凝縮装置が故障し、修理のため使用中止の期間があり、復旧後も、利用時間に制限が生じるなど、当初の計画より実験が遅延したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
選定したパルスプログラムを用いて実験を進め、繰越金を使用する予定である。
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