2016 Fiscal Year Research-status Report
神経障害性痛における海馬BDNFの役割と治療応用への基礎的研究
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15K10560
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
横山 正尚 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (20158380)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 崇 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 講師 (40380076)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経障害精痛 / 海馬 / BDNF |
Outline of Annual Research Achievements |
神経障害性痛とBDNFの関連性に関する研究は, 末梢神経, 脊髄後角レベルで多く報告されているが, 海馬での変化については十分な検討がなされてない。今回, 動物モデルを用いて神経障害性痛と海馬BDNFの変化の関係を検索した。 雄性SD系ラット(6-8週齡)を使用し, 神経障害性痛モデルは, 右側L5-6脊髄神経を6-0絹糸で結紮・切断することにより作製する脊髄神経切断(SNL)モデルを用いた。対照群のラットでは麻酔および皮膚切開のみを行った。SNL手術2, 5, 7, 14日後の海馬をそれぞれ摘出し, BDNF の発現レベルをELISA法で測定した。その結果, 対照群と比較してSNL群では有意にBDNF濃度が低下していた。BDNF濃度の低下は術後5日目から生じていた。また, その程度は痛覚過敏様行動の発現頻度と相関関係があった。この結果は神経障害性痛の病態機序に海馬BDNFの低下が関与していることを示唆する。 別の実験系として神経障害性痛ラットに対する外因性BDNF投与の抗痛覚過敏効果について検討した。BDNFの投与ルートとしては経鼻投与を選択した。BDNFの経鼻投与により海馬でのBDNF増加は確認されたが, 脊髄レベルでの増加は認められなかった。SNLラットに術後5日目から7日間, 外因性BDNFの経鼻投与を行ったところ有意なvon Frey試験の逃避行動閾値の増加およびpin試験の痛覚過敏様行動の発生頻度の減少が生じた。一方, その他の行動学的な異常(副作用)は生じなかった。この結果はBDNFが神経障害性痛の治療に有用である可能性が考えられる。今後, 投与量・投与タイミングのより詳細な検討が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的である1) 神経障害性痛モデルラットにおける海馬BDNF変化の同定, 2) 海馬BDNF濃度変化と疼痛・うつ・認知行動試験の相関解析, 3) 各種鎮痛薬・鎮痛補助薬の作用メカニズムにける海馬BDNFの関与, に関してこれまでおおむね順調に進展していると判断した。 具体的には, 目的1)に関しては, 神経障害性痛の病態機序における海馬BDNFの関与を明らかとするために, 神経障害手術2, 5, 7, 14日後に海馬を摘出し, BDNFの発現変化をmRNA レベル (RT-PCR法), 蛋白レベル (ELISA法)で測定し, 正常群と比較することで神経障害性痛における海馬BDNFの特異性を解析できた。目的2)に関しては, 神経障害性痛ラットでは, 疼痛行動以外にうつ様行動, 認知機能障害を生じることを確認できた。目的3)に関しては, 神経障害手術2週間後, あらかじめ設定しておいた等鎮痛用量の各種鎮痛薬の投与を行い, 薬物投与前後における海馬BDNF発現量 (ELISA法) の変化を解析することができた。これらの結果は神経障害性痛の病態機序における海馬BDNF機能変化・役割の重要性を示唆している。一方で, 当初予定していた血液中のBDNF濃度と痛覚過敏様行動の検討が不十分である。次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も麻酔科学・疼痛学の立場から, 特に海馬BDNFの機能変化の神経障害時の痛覚過敏・精神障害の病態機序における詳細を明らかとするとともに, 血液中BDNF濃度を指標とした神経障害性痛バイオマーカー, 選択的海馬BDNF治療の可能性を明らかとすることを目的に研究を継続する予定である。 具体的には, これまでの成果に基づき, 1)慢性痛バイオマーカーとしての血液中BDNF値の可能性: 脳内のBDNFは脊髄と比較して豊富に存在し, 血液中に僅かに検出されるBDNF濃度は脳内BDNF濃度と相関し, うつ病の重症度とも関連することが示されている。これらの成果を応用して, 血中BDNF濃度の値が神経障害後の慢性痛に対するバイオマーカーとなり得るかどうか検討する。神経障害性痛ラットの痛みの程度, うつ様行動の程度, および認知機能の程度と血液中のBDNF濃度の相関, またプレガバリンで治療した前後での変化をそれぞれ系時的に検討する。2) 海馬BDNFを標的とした慢性痛治療の可能性の検討: 海馬BDNFシグナル刺激が慢性痛の治療になり得ることを検討する。マイクロピペットを用いてラットの鼻孔からBDNF (溶液) を投与し, 一定時間後に回収した血漿,脳脊髄液, 各種脳部位中の薬物濃度を測定する。至適投与量を確認後, 神経障害性痛モデルラットでBDNF経鼻投与の鎮痛, 抗うつ, 認知機能改善効果を評価する。これらの成果は将来的な臨床試験の際の貴重な資料となると考えられる。
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Causes of Carryover |
今回使用予定であるELISAキッド, 免疫組織試験の消耗品の支払いが前年度末に集中したため次年度使用額が生じた。この次年度使用額のすべては研究計画通り次年度前半に使用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は前年度の研究計画通りに今年度前半にELISAキッドおよび免疫組織試験の消耗品に使用する予定である。今年度の研究費に関しては研究計画通りに使用する予定である。
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Research Products
(7 results)