Outline of Annual Research Achievements |
成獣および高齢ラットに脊髄神経結紮(SNL)手術を行い, その後の疼痛行動, 脳由来神経栄養因子(BDNF) の経時的変化を検討した。特に高齢ラットのSNL手術は, ラット脊椎近傍解剖の加齢性変化を考慮し, 第5腰椎横突起を切断しない方法を用いた。 (1)疼痛行動: 疼痛行動としてvon Freyフィラメントによる逃避行動閾値を用いたアロディニア評価とピン刺激による痛覚過敏様行動の発生頻度を用いた痛覚過敏評価を行った。それぞれの試験は, SNL手術前 (基準値) および術後3, 7, 14, 21日後に評価した。その結果, アロディニア行動はラットの年齢による違いはなかったが, 痛覚過敏様行動は成獣ラットと比較して高齢ラットで有意に増加した。同時に行ったオープンフィールド試験では, 自発行動に年齢差はなかった。また, in vivo single fiber recordingでは, 障害測一次知覚神経の興奮性 (spontaneous firing) にも年齢による違いはなく, 加齢に伴う痛覚過敏行動の増加は中枢神経系機序を介する作用であることが示唆された。 (2)BDNF変化: 疼痛行動評価後, 脳を摘出し, 大脳皮質, 前頭前野, 扁桃体, 海馬, 視床, 小脳におけるBDNF濃度をELISA法で測定した。それぞれ部位のBDNF濃度は, 非SNL手術ラット群とSNL手術ラット群との間で比較検討した。その結果, 成獣および高齢ラットともに海馬でのBDNF濃度低下が生じたが, その程度は高齢ラットで有意に大きかった。他の脳部位でもBDNF濃度が低下する傾向はあったが統計的な有意差はなかった。また, 外因性BDNFの経鼻投与により高齢ラットに生じる痛覚過敏様行動の増悪が消失した。海馬BDNFは, 高齢者における慢性痛の病態機序と重要な役割を果たすことが示唆された。
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