2015 Fiscal Year Research-status Report
汎用性のある内耳特異的ノックアウトマウス作製法の開発
Project/Area Number |
15K10765
|
Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
櫻井 結華 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (50307427)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 央子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40528452)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 先天性難聴 / コンディショナルノックアウト / CRISPR/ Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
先天性難聴の病態解析には動物モデルの作製が不可欠であるが、先天性難聴の原因遺伝子のノックアウトマウスの一部は、胎生致死となり生後の聴覚生理を解析できないという問題がある。DiGeorge症候群(Tbx1遺伝子変異により難聴と心疾患を合併)やWaardenburg症候群(Sox10遺伝子変異により難聴と巨大結腸症を合併)など、症候群性難聴のヒト疾患モデルマウスの多くは、内耳以外の発生異常が原因で発生中、あるいは、出生直後に致死となり、生後の聴覚生理機能を評価することは不可能である。こうした問題を解決するため、内耳特異的コンディショナルノックアウトマウスを作製する事を想起した。申請者はこれまでにSix1遺伝子のシスエレメントの解析により内耳発生領域に特異的に発現を示すエンハンサー領域を発見した。同エンハンサー領域の制御下にCreリコンビナーゼを発現するCreマウスを作製し、任意の難聴原因遺伝子をloxP配列で挟んだノックインマウスを別途作製する事で、内耳特異的コンディショナルノックアウトマウスの作製が可能となる。これまでの、ES細胞の遺伝子改変を経て作製するノックアウトマウスは作製までに多くの労力と時間を要する。そこで、近年遺伝子改変技術に大きな進歩をもたらしたCRISPR/Cas9システムを用いて、簡便にノックインマウス作製を行う事とした。CRISPR/Cas9システムは任意の配列に設定したgRNAを認識してCas9タンパクがゲノムDNAを切断する。その際に、切断部位の両端の配列をアームとして有したssDNAを同時に注入することで遺伝子ノックインを行うことができる。これまでに行われてきたノックイン作製と比較して圧倒的に短時間低コストでノックインを行うことが可能である。本実験系が確立されることにより理論的に全ての難聴現遺伝子の解析が可能となる
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
内耳特異的エンハンサーの制御下にCreリコンビナーゼを発現するマウスの作製が予定より遅延した。トランスジェニックマウスのバックグラウンドとしてC57BL/6マウスを選択した(既存の難聴原因遺伝子のFloxマウスにC57BL/6をバックグラウンドとして作製された系統がいるため)ことにより、トランスジーンのジャームライントランスミッションを確認できた産仔が想定よりも少なく、結果として追加の受精卵インジェクションを行う必要が生じた。現在、追加のインジェクションを含めて3ライン得られており、最も内耳発生領域での発現が強いラインを選定するためにレポーターマウスと交配して確認中である。 また、ノックインマウスの作製に関して、当初受精卵へのgRNAとCas9発現プラスミドのマイクロインジェクションを予定していたが、エレクトロポレーションを用いた簡便で効率の良い方法が報告されたため、gRNAとCas9の受精卵への導入方法を変更して研究を進めている。同方法では長いDNA配列のノックインは困難であるが、本研究では30-40bpと短いloxP配列のノックインが行えれば良いためより効率的な方法と考えている。 さらに、最近CRISPR/Cas9システムをウイルスベクターを用いて行う方法が報告されている。組織特異的にCas9を発現する遺伝子カセットと任意のgRNAをウイルスベクターに搭載することで、組織特異的にノックアウトを行うことが可能である。同方法で胎仔に直接遺伝子導入を行うことで、系統維持はできないもののF0世代(遺伝子導入マウス)からコンディショナルノックアウトを行うことが可能である。マウス胎仔の内耳発生領域へのウイルスベクターによる遺伝子導入方法に関しては、現在、ウイルス投与量、投与方法に関して最適化を終えた状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
内耳特異的Creマウスの発現解析を引き続き進める。内耳に最も強い発現をもつラインが選定され次第、既存のFloxマウス、Tbx1 Floxマウス、Pax3 Floxマウスなどと交配し生後の聴力を測定する。ヒトにおける遺伝子異常で起こる聴力障害との相同性についても評価する。マウスのABR測定に関しては既に最適化済みである。OAEの導入も考慮しており、こちらはシステムのセットアップとマウスへの最適化が必要である。 Floxマウスの作製に関しては、よりハイスループットな実験系とするため、受精卵へのマイクロインジェクションではなく、エレクトロポレーションによるCRISPR/Cas9導入方法の最適化を進めていく。現在、ノックアウト効率を最適化するため、チロシナーゼ遺伝子のノックアウトを行い色素欠損の頻度を確認中である。マウス系統のバックグラウンドによりエレクトロポレーションによる生存率も変化が出ることが想定されるため、C57BL/6受精卵を対象に最適化していく。さらに、loxP配列のクローニングを行い、ノックイン効率も検討していく予定である。 ウイルスベクターを用いた胎仔へのCRISPR/Cas9システムの導入に関しては、具体的にはアデノウイルスを用いて行っていく予定である。アデノウイルスによる蛍光タンパクの強制発現実験では、内耳発生領域に良好に遺伝子導入が可能であった。導入遺伝子をgRNAとCas9に変更するにあたり、まずは内耳特異的エンハンサーの制御下にCas9を発現するアデノウイルスを作製した。同ウイルスのin vivoでの導入効率を確認するため、まずはウイルス投与後2日後に胎仔を回収し、免疫染色にてCas9タンパクがどの程度内耳発生領域で発現しているかを確認する。また、gRNAの導入効率も確認する必要があるが、標的配列にも切断活性が影響を受けるため、まずは培養細胞を用いてin vitroでゲノム遺伝子の切断活性を確認する予定である。
|
Causes of Carryover |
平成27年度の終わりごろになり、年度内予算の残高不足が生じる可能性が出たため、本来行いたかった実験予定に関して進行速度を3月は抑えめにして試薬等の購入を差し控えた結果、81834円の余剰が出た。平成28年度は、本実験をさらに進めていくために、実験の進行速度を戻し、当該金額をマウス飼育料や試薬等の購入にフル活用させていただく予定である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度予算と合わせて当該金額を使用し、実験を進めていきたい。具体的な平成28年度の予定は以下の通りである。 まず、現在、内耳に最も強い発現をもつマウスラインを選定中であり、これらのマウス交配・飼育にかかる費用に充てる。また、現在、ノックアウト効率を最適化するために、チロシナーゼ遺伝子のノックアウトによって色素欠損の頻度を確認する実験も行っており、これらの実験に必要な物品購入にも充てる予定である。 その他、、ウイルスベクターを用いた胎仔へのCRISPR/Cas9システムの導入を、アデノウイルスを用いて行っていく予定であり、その資金としての使用も予定している。
|