2015 Fiscal Year Research-status Report
緑内障濾過手術後濾過胞瘢痕機序の解明と新しい術後管理方法の確立
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15K10857
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
川井 基史 旭川医科大学, 医学部, 講師 (80400109)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 征吾 旭川医科大学, 大学病院, その他 (00451469)
坪井 尚子 旭川医科大学, 大学病院, その他 (40548848)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 緑内障 / 濾過手術 / 創傷治癒 / 結膜線維芽細胞 / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
眼房水(房水)中のMonocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1) 濃度が高いと緑内障手術成績は悪化するという過去の臨床研究結果から、申請者らはMCP-1の濾過胞瘢痕化メカニズムに着目した研究を行っている。このメカニズムを動物実験と細胞実験で明らかにすることで、緑内障術後の眼圧下降をより安定化させるための新しい術後管理方法や治療薬の臨床応用へ展開したいと考えている。 平成27年度は、既に確立しているウサギ緑内障手術モデルにおいて、濾過胞にMCP-1を長期的に作用させると同部位の濾過胞組織に瘢痕化が生じるかどうかを調べる予定であったが、まずは、より再現性のある結果が期待できる細胞実験を行った。 ヒト結膜線維芽細胞とM1またはM2マクロファージを共培養すると、M2マクロファージがα-smooth muscle actin (α-SMA) 発現を上昇させることが確認された。またM2マクロファージの培養上清をコラーゲンゲルに処理すると、M1マクロファージの培養上清とは異なり、コラーゲンゲルを収縮させた。このことから生体では、緑内障濾過手術後、房水中に高濃度で存在するMCP-1が濾過胞内へ移行した際に、単球/マクロファージを結膜に遊走し、濾過胞の瘢痕化(創傷治癒)を促進することが推測された。また、その創傷治癒過程にはM2マクロファージが重要な役割を持つことが明らかとなった。このことは、本研究の目的である、房水中MCP-1がどのようなメカニズムで濾過胞を瘢痕化へと導き、緑内障手術成績を悪化させているのかを解明する上で重要な結果の一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではまず、ウサギを用いた動物実験でMCP-1が緑内障術後濾過胞瘢痕化に及ぼす影響について検討する計画であった。しかしながら、MCP-1含有ゲルを用いてMCP-1を結膜下へ長期間作用させた後の結膜への炎症細胞集積を予備実験では確認していたものの、その再現性を十分に得ることができなかった。その理由として、MCP-1含有ゲルの作成に問題点があると思われた。すなわち、ゲル内のMCP-1濃度を均一にできなかったこと、さらに、ゲル作成の際にMCP-1が不活化した可能性がある。今後、実験モデルの再考も含め検討を重ねたいと考えている。 一方、細胞実験では一定の成果をおさめることができた。すなわち、マクロファージとヒト結膜線維芽細胞の共培養系において上述の結果が得られた。したがって、本研究課題の進捗状況について、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、細胞実験でさらなる成果を上げることを考えている。その方策として共培養実験系を用いた本研究で得られた本年度の結果、すなわち、M2マクロファージがヒト結膜線維芽細胞におけるα-SMA発現を上昇させたこと、M2マクロファージの培養上清をコラーゲンゲルに処理するとコラーゲンゲルが収縮したこと、をベースに研究を推進していきたい。具体的には、現在、上市されている様々な緑内障治療薬を添加し、共培養系におけるα-SMA発現と、コラーゲンゲルの収縮抑制に働く薬剤を探索し、それを確立しているウサギ緑内障濾過手術モデルに点眼することで、濾過胞瘢痕化が抑制されることを突き止めたい。候補薬剤としては、in vitro、in vivoで創傷治癒抑制効果が報告されているRho-associated kinase (ROCK) 阻害剤であるリパスジルを考えている。また、新たな研究計画として、マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析を検討中である。動物実験では有意な結果が得られない可能性があり、新たな展開として遺伝子レベルでの解析を行い、本研究を推進していきたい。
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Causes of Carryover |
物品費、旅費、人件費、謝金、その他の項目において、本年度使用額予定分は主任研究者についてはほぼ予定とおり執行したが、分担研究者の研究費の執行が少なかったため差額が生じた。これは、当初本研究の主体をなすと思われた動物実験の進捗が思わしくなく、実験が中断したことが原因と考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、細胞実験をさらに進める予定である。房水が緑内障濾過手術に与える影響、さらには生理的房水流出路である線維柱帯(線維柱帯細胞)に与える影響について、マイクロアレイによる遺伝子の網羅的解析を行い遺伝子レベルでの解析を試みる予定である。
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Research Products
(3 results)