2016 Fiscal Year Research-status Report
房水生理活性物質の相互作用による緑内障発症機序の解明
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15K10872
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井上 みゆき 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特任助教 (20631766)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 俊洋 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (00317025)
谷原 秀信 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (60217148)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 緑内障 / 線維柱帯細胞 / TGF-β2 / IL-6 / STAT3 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国において失明原因の一つとして眼圧上昇による緑内障が危険因子として知られている。今までに緑内障における眼圧上昇は房水流出抵抗が増大することに起因していると報告されている。申請者はこの房水流出調節メカニズムを探るため、TGF-β2に着目した。今までの報告により、TGF-β2は緑内障患者房水内において非患者と比較して高値であり、房水流出調節に関わる線維柱帯細胞において細胞外マトリックスの沈着、アクチン重合を生じさせることから、眼圧上昇の一因として示唆されている。申請者はこれまで線維柱帯細胞を用いて、TGF-β2により誘導されるアクチン重合やコラーゲン発現に対するROCK阻害剤とp38阻害剤の効果について検討を行ってきた。 本研究にてさらに房水流出調節メカニズムを理解するため、房水中のTGF-β2とTGF-β2によって誘導される生理活性物質が線維柱帯細胞において協調的に働き房水流出調節に影響を及ぼす可能性について検討した。まず線維柱帯細胞上清中においてTGF-β2によって誘導されるサイトカインを調べた。申請者はTGF-β2によって有意に上昇したサイトカインの一つであるIL-6に着目し、線維柱帯細胞を用い、TGF-β2シグナルとIL-6シグナルの相互作用について検討した。その結果、TGF-β2により発現誘導されるα-SMAやアクチン重合に関わるMLC2のリン酸化がIL-6/sIL-6Rの添加により抑制され、TGF-β2シグナルの下流因子に対しても同様の結果が確認された。このことから房水生理活性物質の相互作用が、房水流出経路に関わる細胞に影響を及ぼすことが示唆され、今後も房水流出調節メカニズムを明らかにすることが出来ると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで線維柱帯細胞においてマルチプレックスアッセイを用いてTGF-β2刺激によって上清中に有意に発現誘導されてくるサイトカインの一つとしてIL-6を見出した。TGF-β2は他の細胞では線維化や癌細胞の浸潤、転移に関わっており、眼圧上昇に関わる線維柱帯細胞においてもそれらに関わるα-SMAの発現を誘導し、線維化に似た形態に変化させる。申請者はまず始めに、TGF-β2によって誘導されるIL-6シグナルがTGF-β2シグナルに対し、どのような影響を及ぼすのか検討した。線維柱帯細胞にTGF-β2とIL-6シグナルを活性化させるためIL-6とsolubleIL-6receptor(sIL-6R)を同時添加し、発現誘導される因子について検討した。その結果、IL-6/sIL-6R添加により、TGF-β2によって発現誘導されるα-SMA、アクチン重合に関わるMLC2のリン酸化、さらにTGF-β2シグナル下流の転写因子Smad2やp38リン酸化が有意に抑制された。その結果からIL-6シグナル下流で機能している転写因子STAT3の活性化が関わっているのではないかと考え、細胞内にてSTAT3をsiRNAを用いノックダウンさせ、その効果について検討した。その結果、STAT3を細胞内にて欠損させることで、TGF-β2シグナルに対するIL-6/sIL-6Rの抑制効果が消失した。よって、TGF-β2シグナルに対する抑制効果には転写因子STAT3の活性化が必要であることが今回の研究において明らかとなった。またIL-6/sIL-6RはTGF-βシグナルのレセプターに対しても抑制効果があることが明らかになった。 以上の結果から、線維柱帯細胞においてサイトカイン等の生理活性物質が相互作用し、アクチン重合、線維化に影響を及ぼしていることが示唆され、房水流出調節において新たなシグナル伝達経路を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究にて、線維柱帯細胞においてTGF-β2によって誘導されてくるIL-6シグナルがTGF-β2シグナルに対して抑制効果があることが明らかになった。さらに眼圧上昇に関わると報告されているコラーゲンやファイブロネクチンといった細胞外マトリックスに対してもどのような効果があるのか検討する。 また線維柱帯細胞の他、房水流出調節に欠かせない細胞としてシュレム管内皮細胞が知られている。この細胞についても同様に、TGF-β2によって誘導されてくるサイトカインについて検討し、TGF-β2シグナルに対するそのサイトカインの影響についても調べる。さらにTGF-β2存在下で線維柱帯細胞を培養し、その細胞上清がシュレム管内皮細胞の形態変化や細胞外マトリックスにどのような影響をもたらすのかも共培養などを用いて検討したいと考えている。これらのことから線維柱帯細胞とシュレム管内皮細胞の両者に対する生理活性物質の影響を解析し、房水流出調節メカニズムをより理解できると考えて研究を進めていく。
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Research Products
(5 results)