2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞由来角膜内皮細胞を用いたT細胞免疫特権機構の解析
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15K10902
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
羽藤 晋 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (70327542)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 角膜内皮細胞 / iPS細胞 / 免疫寛容 / 制御性T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度、iPS由来角膜内皮様細胞の培養フラスコに対する低接着性が原因で、T細胞との共培養実験が困難な問題があった。角膜内皮の前段階にある神経堤細胞の誘導方法は確立しており、神経堤細胞の接着性は強固なので、今年度は、誘導神経堤細胞の段階に立ち返って、免疫学的特性を検証することとした。すでに誘導神経堤細胞は、動物実験で創傷治癒能を持つことが知られており、さらに近年では神経堤の発生異常に伴う先天性巨大結腸症のモデル動物の治療にも有効であることが報告されている。ヒトへの臨床応用を行う前に、その免疫学的特性を評価することは重要である。 誘導神経堤細胞はヒトiPS細胞よりもHLA classⅠの発現が低く、HLA classⅡと共刺激分子(CD80、CD86)の発現がなかった。さらに、誘導神経堤細胞と健常人由来のT細胞をインターロイキン2とCD3/CD28刺激抗体の存在下で共培養すると、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の増殖が抑制された。ヒトiPS細胞と健常人由来のT細胞の共培養では、T細胞の増殖は 抑制されなかった。 その他の成果として、健常人5人のリンパ球を混合培養するとリンパ球は幼若化し、活発に増殖を開始する(Mixed Lymphocyte Reaction)。そこに、神経堤細胞を共培養させると、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞だけでなく、マクロファージやナチュラルキラー細胞を含むリンパ球全体の増殖を抑制することも確認できている。 これらの結果より、誘導神経堤細胞は免疫原性が低く、T細胞の増殖抑制能を持つということが分かった。これは、ヒトへの移植を想定した場合に、炎症反応や拒絶反応を起こしにくいことが予想され、移植細胞としては有利な結果である。 以上の内容を第121回日本眼科学会総会(平成29年4月6日~9日、東京)でポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、角膜内皮の前段階の神経堤細胞を用いるなど、実験方針の多少の修正が加わったものの、神経堤の免疫原性が低いこと、T細胞の増殖抑制能を持つことを見出し、学会報告も行い、一定の成果を達成している。神経堤細胞の免疫学的抑制能に関わる分子としては、DNAマイクロアレイと定量PCRの結果より、TGF-β2が候補として考えられた。フローサイトメトリーおよび免疫組織染色の結果より、神経堤細胞の細胞表面にmembrane-bound TGF-β2の発現が確認された。 その一方で、ヒト角膜内皮細胞では、T細胞との共培養時に制御性T細胞の誘導する性質があることが知られているが、誘導神経堤細胞ではそのような作用はなかった。 ヒトiPS細胞の2ライン(253G1と201B7)で同様の結果が出ることを確認した。 並行して角膜内皮細胞の誘導にも取り組んでおり、角膜内皮誘導後には、その免疫学的特性を上記と同様に調べる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
TGF-β2が、神経堤細胞が持つT細胞増殖抑制能の重要な分子であることを証明するために、以下の実験を予定している。神経堤細胞とT細胞を12 well culture plateでインターロイキン2とCD3/CD28刺激抗体存在下で共培養し、TGF-β2の中和抗体あるいはsiRNAを投与すると、T細胞増殖抑制能が解除され、T細胞が増殖するかどうかを確認する。 以上のようにして、神経堤細胞の免疫学的特性が明らかになりつつあり、今後は誌面での発表をめざし準備を進めている。 上記と同様の免疫学的特性実験を、ヒトiPS細胞由来角膜内皮細胞でも確かめる予定である。誘導角膜内皮細胞が、生体内の角膜内皮細胞と同様の免疫学的特性を有していれば、誘導角膜内皮細胞を用いたヒト臨床試験が、拒絶反応を起こすことなくヒト生体内で生着することが期待できる。また、誘導神経堤細胞と誘導角膜内皮細胞の免疫学的特性を比較することで、発生学的に免疫学的特性がどのように変化しているかを考察することが出来る。
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Causes of Carryover |
本年度は研究を進めてデータを蓄積することに多くの労力を割き、その分学会への参加がすくなく、当初予定よりも旅費の使用が少なかったため、使用額が若干残存することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度、ある程度データを蓄積することができたため、次年度は積極的に学会参加を行い、計画どおり使用していく予定である。
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Research Products
(1 results)