Outline of Annual Research Achievements |
特発性黄斑上膜は主に中高年者に発症し, 変視症, 視力低下をきたす。現時点で有効な薬物治療はなく, 硝子体手術が唯一の治療手段である。特発性黄斑上膜の成因としては, 後部硝子体皮質前ポケットの後壁の硝子体ゲルを基盤とし,その部位に細胞増殖や細胞外基質の蓄積が生じるとする説, あるいは後部硝子体剥離によって惹起された内境界膜の破綻によって, 感覚網膜中のグリア細胞が遊走増殖する説などが提唱されている。しかし, 本疾患においてこのような形態学的な面以外の研究はほとんどなされていないのが実状である。 われわれは以前に特発性黄斑上膜と同じ黄斑部に特異的に発症する特発性黄斑円孔において, セリンプロテアーゼの一つであるキマーゼの硝子体内の活性が上昇していることを報告した。また, 中心窩の網膜には幹細胞様の未分化な細胞が存在し, キマーゼによるアポトーシス作用によって, これらの未分化な細胞が機能不全をおこして, 黄斑円孔が生じるのではないかという仮説を提唱した。 一方, 糖尿病網膜症を有する患者では血清中の抗2型コラーゲン抗体値が上昇しており, 糖尿病網膜症の進行によって血液網膜関門が破綻することで, 血清中の抗2型コラーゲン抗体が硝子体中の2型コラーゲンと接触し, 一種の免疫反応を生じることが糖尿病網膜症の病態に関与する可能性を提唱した。 今回, これらの研究の延長線上で, 特発性黄斑上膜とセリンプロテアーゼの一つであるトリプターゼおよび抗2型コラーゲン抗体との関連についてさらに研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
手術時に硝子体を採取し,トリプターゼ活性を測定した。疾患の内訳は黄斑円孔(MH)10眼,増殖糖尿病網膜症(PDR)10眼,ERM 15眼,網膜剥離(RD)10眼であった。トリプターゼ活性測定には吸光度分析法を用いた。抗2型コラーゲン抗体価はERM患者血清15例, コントロ-ルには白内障患者血清10例を用いた。測定にはanti-type type II collagen IgG assay kitを用いた。その結果は前回と比較して測定値のばらつきが大きく,現在サンプルを増やして再検討する予定である。抗2型コラーゲン抗体価は,ERM56.42 ±35.63units/ml, コントロ-ル30.42 ±16.13 units/mlで,ERMが有意に高値を呈した(p=0.042, Mann-Whitney test.)。ニューロステロイドについては,硝子体および血中のテストステロン(TE),エストラジオール(E2)をELISA法にて測定した。E2は黄斑上膜(ERM)15例, 黄斑円孔(MH)17例, 増殖糖尿病網膜症(PDR)10例, 網膜剥離(RD)16例で測定した。TEはERM5例, MH16例,PDR5例,RD15例。年齢は各群間で有意差はなかったその結果,硝子体中E2濃度(pg/ml)はERM:13.80±10.50,MH:15.00±7.25,PDR:16.00±3.53,RD:16.06±4.57。対して,血清中E2濃度はERM:10.00±0.00,MH:9.94±2.02,PDR:11.50±4.74,RD:10.31±3.44と,どの疾患においても硝子体中のE2濃度が血清中より有意に高値であった(p<0.01)。硝子体中TE濃度(pg/ml)は, ERM:0.145±0.007,MH:0.147±0.012,PDR:0.133±0.015,RD:0.174±0.076に対してERM:0.112±0.058,MH: 0.159±0.097, PDR:0.172±0.129,RD:0.182±0.092と, 硝子体と血清の間で疾患により差異を認めた。 術中に採取した黄斑上膜の免疫染色の結果は,キマーゼおよびトリプターゼに陽性所見を認めたが,さらにサンプル数を増やして検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
硝子体中のトリプターゼ活性測定にばらつきが見られたので,再検討する予定である。また硝子体中だけではなく同一患者の血清中のトリプターゼ活性も測定し,トリプターゼ活性上昇が,眼局所で生じているものなのか,全身を介しているものなのかを調べる。また肥満細胞の脱顆粒との因果関係についても検討する予定である。抗2型コラーゲン抗体については,疾患の発症早期と晩期で差がないか検討する予定である。ニューロステロイドについては,今回の結果からは各疾患で差を認めなかったが,硝子体中と血清中濃度の違いについてさらに解析を進め,眼局所でのステロイド産生とセリンプロテアーゼの関連につき検討する予定である。黄斑上膜の免疫染色については,さらにサンプル数を増やして検討する予定であり,今後はコンフォーカルマイクロスコピーを用いて網膜をホールマウントにして免疫染色を施行する予定である。 また黄斑上膜の組織中に肥満細胞が見られたとする報告があるので,網膜グリア細胞(ミュラー細胞)が形質転換によって肥満細胞の性質を獲得するのかを調べる。方法としては,ミュラー細胞におけるToll-like receptorの発現を種々の培養条件(低分子量ヒアルロン酸の添加など)で調べる。
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