2015 Fiscal Year Research-status Report
中赤外ナノ秒パルスレーザーを用いたう蝕象牙質切削における選択的治療条件の最適化
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15K11112
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石井 克典 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20512073)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | レーザー治療 / 中赤外レーザー / 低侵襲治療 / 保存修復学 / ミニマルインターベンション |
Outline of Annual Research Achievements |
ミニマルインターベンションを実現するにあたり、健全歯に非侵襲に感染象牙質や軟化象牙質を選択的に切削可能な技術が切望されており、我々の先行研究において、中赤外域のナノ秒パルスレーザーを用いることで軟化象牙質のみを選択的に切削可能なことが分かってきている。本研究では、中赤外域の有機質由来の吸収帯における波長依存性を検討することで選択的切削のメカニズム解明を行うこと、最適波長と最適照射エネルギー条件(平均パワー密度と照射時間)を決定すること、最適条件におけるコンポジットレジン修復への適応性を評価することを目的としている。 平成27年度は、レーザーの波長・平均パワー密度・照射時間と切削深さ・切削形態との関係について、ウシ歯虫歯モデルを用いた実験による評価を行った。光源に波長可変域2.8~3.1 μmの光パラメトリック発振方式ナノ秒パルスレーザー、および波長5.85 μmの量子カスケードレーザーを用い、ウシ健全象牙質とウシ脱灰象牙質(虫歯モデル)を対象に、レーザー顕微鏡による切削深さ、切削体積の評価、および走査型電子顕微鏡観察による熱影響の評価を行った。 その結果、波長域2.8~3.1 μmのナノ秒パルスレーザーを用いることで、非注水でも炭化を生じずに歯を切削でき、健全象牙質に低侵襲に脱灰象牙質を切削できることが確認された。しかし、切削深さは、レーザーの吸収が最も強い波長3.0 μmでは最大とならず、吸収ピークから0.05 μm程度ずれた波長で最大となった。今後、切削メカニズムの検討を通してこの原因を考察する。 さらに、ナノ秒パルスレーザーより小型(約20 cm)である波長5.85 μmの量子カスケードレーザーを用いた場合にも、健全象牙質に低侵襲に脱灰象牙質を切削できることが確認された。 これらの知見は虫歯の選択的切削が可能なレーザー治療機器の開発に大きく貢献できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、当初計画どおり、レーザーの波長・平均パワー密度・照射時間と切削深さ・切削形態との関係について、ウシ歯虫歯モデルを用いた実験による評価を行った。光源に波長可変域2.8~3.1 μmの光パラメトリック発振方式ナノ秒パルスレーザー、および波長5.85 μmの量子カスケードレーザーを用い、ウシ健全象牙質とウシ脱灰象牙質(虫歯モデル)を対象に、レーザー顕微鏡による切削深さ、切削体積の評価、および走査型電子顕微鏡観察による熱影響の評価を行った。 レーザー波長・平均パワー密度・照射時間などの測定条件の数や、ウシ健全象牙質、ウシ脱灰象牙質のサンプル数についても予定どおりに評価実験を進めており、順調に進展していると言える。今後は、レーザー波長・平均パワー密度・照射時間と切削深さ・切削形態との関係についてより詳細に評価を行い、最適条件における虫歯の選択的切削の実験的物理式に基づいた理論的考察、最適条件と切削深さ・切削形態との関係(ヒト虫歯を用いた実験)、および最適条件におけるコンポジットレジン接着性の評価(ヒト虫歯を用いた実験)を行うことで、虫歯の選択的切削が可能なレーザー治療機器の開発指針を得ることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
① 波長・平均パワー密度・照射時間と切削深さ・切削形態との関係(ウシ歯虫歯モデルを用いた実験)について平成27年度に引き続き実験を行う。 ② 最適条件における虫歯の選択的切削の実験的物理式に基づいた理論的考察について、実験①で明らかとなった切削深さの波長依存性のデータとウシ象牙質の吸収係数のデータを用い、レーザーアブレーションの実験的物理モデルであるBlow-offモデルから最適波長および最適照射エネルギー範囲を考察する。ウシ象牙質の吸収係数のデータはフーリエ変換型赤外分光光度計を用いることで反射率補正を行った正確な吸光度を、レーザー顕微鏡を用いることで正確な試料厚みをそれぞれ測定し、逆ランバート・ベールの法則により算出する。 ③ 最適条件と切削深さ・切削形態との関係(ヒト虫歯を用いた実験)について、実験①および②で決定した最適波長および最適照射エネルギー範囲を用いることで、ヒト虫歯の選択的切削が可能なことを実験的に証明する。ヒト虫歯象牙質の虫歯部分と健全部分を対象に、切削深さの評価(レーザー顕微鏡による定量)および熱影響の評価(走査型電子顕微鏡観察)を行う。また、レーザー照射条件(波長、パルス幅)、虫歯象牙質の光学特性(吸収特性や熱緩和時間特性)および機械的特性(粘性や硬さ)といった各種パラメーターを関連付け、選択的切削が起きるメカニズムを考察する。 ④ 最適条件におけるコンポジットレジン接着性の評価(ヒト虫歯を用いた実験)について、現在の虫歯治療は切削治療後にコンポジットレジン充填を行い修復することで完了する。実験③で決定した最適波長および最適照射エネルギー範囲でヒト虫歯象牙質の切削を行い、切削面を接着材で処理し、コンポジットレジンの充填を施し、接着強度試験(引っ張り試験)を行い接着強度を評価する。比較対照として、現行のEr:YAGレーザーによる切削歯面に対するレジン接着強度も評価する。
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Causes of Carryover |
試料へレーザーを照射するための光学系を、当初の予定よりも少ない額で構築することができたため、若干の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、平成28年度に行うレーザー照射実験で必要となる試薬等消耗品の購入に使用する予定である。
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