2015 Fiscal Year Research-status Report
矯正的歯の移動に伴う疼痛発現:三叉神経節ニューロン-グリアのクロストークの役割
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15K11355
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
島津 徳人 麻布大学, その他部局等, 准教授 (10297947)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武田 守 麻布大学, その他部局等, 教授 (20227036)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 歯の強制移動 / ラット / 臼歯 / 疼痛 / 三叉神経節 / ニューロン / グリア細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、NiTi コイルスプリング矯正装置(15g荷重)を使用して、ラット上顎第一臼歯の近心移動を行った。今回のNiTiコイルスプリング矯正装置を装着した動物実験例(20個体)では、最長7日間の観察期間に矯正装置の脱落・破損は3例にとどまり、相同な負荷条件下では臼歯移動様式の再現性も高いことが確かめられた。7日間持続負荷の条件においては、第一臼歯はすべて近心移動していることが確かめられた。なお、40g荷重群も設定したが、移動歯の歯軸傾斜が増強され、第一臼歯の強度な傾斜移動がみとめられたため、本年度の研究はすべて15g荷重条件を採用した。第一臼歯の近心移動に伴う疼痛(自発痛)の関連行動ついて、Face Grooming行動を指標とした定量解析(装置装着前後において、毎日20分間デジタルビデオカメラで撮影、Face Grooming行動の回数と時間を計測)を実施したところ、装置装着後1日でFace Grooming 行動が最大値を示し、処置後5日目には無処置群と同レベルにまで回復することが確かめられた。また、歯の近心移動に伴う誘発痛の有無を検証する目的で、ラット口吻部においてvon Frey hairによる逃避反射閾値を測定したところ、誘発痛においても装置装着後1日目で逃避反射閾値が有意に減少し、5日目に回復することがわかった。現在は、歯の移動に伴う歯根膜由来の三叉神経節ニューロンの興奮性増強に対する三叉神経節内のニューロンーグリア細胞間クロストークの役割を明らかとするために、歯の矯正移動に伴う疼痛関連行動の誘導に伴って、歯根膜支配の三叉神経節ニューロン周囲のグリア細胞の活性が変調するかを評価する目的で、GFAP活性とサイトカイン(IL-β, TNFα) 産生が炎症により誘導されるかを逆行性蛍光標識および免疫組織化学法を用いて検討を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物モデルを用いた矯正学的な歯の移動実験においては、ラット臼歯が実験系として頻用されてきたが,負荷される矯正力の性質(荷重量,作用方向,作用期間,負荷頻度など)が厳密に規定されていない例が多い。そのため、本年度においては、ラット上顎第一臼歯の近心移動モデルにおいて、矯正処置と歯の近心移動に伴う疼痛発現との関連を三叉神経節のニューロンとグリア細胞との相互作用を明確に理解することを目指して、矯正装置の装着操作に起因する疼痛を可能な限り排除し、第一臼歯の移動による疼痛のみを解析対象とできるよう、ラット矯正学的歯の移動モデルの規格化に注力してきた。これにより、所定の実験プロトコールを遂行するうえでは、麻酔の導入からNiTiコイルスプリングの装着まで30分程度で完了できるようになった。そのため、荷重開始1時間後からのFace Grooming解析が可能となり、自発痛のより詳細な解析データを得ることに繋がった。また、臼歯の矯正移動に伴う炎症により歯根膜由来の三叉神経節ニューロンとサテライトグリア細胞のクロストークに変調が生じるか、あるいは、自発痛に関連する歯根膜由来の三叉神経節ニューロンの自発的発火に起因する疼痛関連行動がどの様なシグナルで変調するのかについての免疫組織学的検索については、上顎第一臼歯歯根膜部に蛍光色素(2% Fluorogold:FG, 10μl)をマイクロシリンジにて注入し、この部位を支配する三叉神経節ニューロンを蛍光標識することに成功している。一次抗体にはグリア細胞の活性化マーカであるGFAP(希釈倍率1:500)とTNFα抗体(1:200)またはIL-1β抗体(1:200)の組み合わせでの免疫反応を想定し、二次抗体に励起波長の異なる蛍光抗体(Alexa488/568, 1:1000)使用した蛍光免疫二重染色のプロトコールを確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題においては、三叉神経節ニューロンの興奮性に対するニューロンーグリア細胞間のクロストークの病態生理学的役割を形態的及び機能的の両面より系統的に解析することを目的としている。今後の研究推進方策としては、歯の移動に伴う歯根膜由来の三叉神経節ニューロンの興奮性増強に対する三叉神経節内のニューロン-グリア細胞間クロストークの病態生理学的役割をより明確にすることを目的として、初年度に着手した疼痛関連行動の定量解析、逆行性蛍光標識および免疫組織化学的解析による三叉神経節ニューロン周囲のグリア細胞の活性変調の立証とサイトカイン産生が炎症により誘導されるかを継続する。これに加えて、歯の矯正移動にともない、歯根膜を支配するどのタイプ(Aδ-とC-)の三叉神経節ニューロンが化学物質(ATP、SP)を産生するのかについての解析を開始する。 次に電気生理学的手法を用いて、歯の矯正移動により、歯根膜支配の三叉神経節ニューロンの興奮性が、局所的にパラクリン分泌された化学物質(ATP、SP、IL-β, TNFα)によりどのように変調するかをマルチバレル電極による微少電気泳動法を用いて検証する。これに併せて、歯の矯正移動した動物の疼痛関連行動が、パラクリン分泌された化学物質の受容体拮抗薬で抑制可能か否かについても合わせて検討する予定である。以上の検証により、矯正学的歯の移動に伴う局所的炎症により生じる歯根膜由来の三叉神経節ニューロンとグリア細胞クロストークの機能的役割について、疼痛関連行動との関連性を明らかにし、三叉神経節内におけるパラクリン・オートクリン分泌機構による修飾機構の解明に新たな知見を加えることができる。さらに、矯正治療時に生じる疼痛の発現機序の解明は、歯科矯正処置時の疼痛緩和療法の新たな開発に貢献する可能性があり、重要性も高いと考えられる。
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Causes of Carryover |
Ni-Ti矯正装置を用いた歯の矯正移動と疼痛関連運動の定量的評価と歯根膜支配の三叉神経節ニューロンの標識がポイントになるため、初年度の研究経費としては、吸入麻酔器(MK-AT220D)、疼痛関連行動を定量化して記録するためのビデオカメラ、一般消耗品として実験動物、各種抗体、蛍光標識色素、マイクロシリンジなどを購入するための経費を請求していた。初年度においては、ラット矯正学的歯の移動モデルを規格化させるなかで、より精細な口腔内処置を実施する上で吸入麻酔器の導入は適切でないと判断したため購入を見合わせた。その結果として次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究では“矯正処置による歯の移動に伴う疼痛発現機序”を明らかとするため、三叉神経節ニューロンの興奮性に対するニューロンーグリア細胞間のクロストークの病態生理的役割を形態学的および機能学的の両側面より解析することに焦点を当てている。したがって以下の研究経費を計上する。①三叉神経節ニューロンの細胞体の直径や蛍光強度に基づく標的分子の発現定量解析を目的として画像解析システム、②三叉神経節ニューロンの興奮性に対するクロストークに関わるサイトカイン拮抗薬を同一細胞に繰り返し投与するためのデュアルマイクロイオントフォレーシス、③これまでの床も品に併せて、細胞外記録に必要な動物、マルチバレル記録電極材料、および三叉神経節へのサイトカイン受容体拮抗薬とその投与のための留置カニューレ材料等を購入する。
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