2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K11494
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Research Institution | Hiroshima International University |
Principal Investigator |
二井矢 清香 広島国際大学, 看護学部, 准教授 (80364181)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
勝山 吉章 福岡大学, 人文学部, 教授 (30214357)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 患者教育 / 歴史 / 自立 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、看護における患者教育が専門性を築き上げてきた歴史的変遷について、2つの学会誌に研究論文を掲載した。1つは「戦後日本70年の患者教育の変遷からみた看護の軌跡-看護基礎教育と臨床現場の実践の視座から-」が、日本看護科学会誌36巻1号9-18頁に掲載された。本論文は、Rankeの実証史学を踏襲した文献研究である。史資料を、一次資料、二次資料、三次資料に分類し、史料批判を行いながら、患者教育が発展していく一連の連関を分析し論証した。その結果、1960~70年代から生活習慣病の増加や高齢化の進展によって指定規則が改正され、看護基礎教育における患者教育の学習基盤が整えられたことがわかった。また、1980年代から人権意識の高まりに伴い、臨床現場の実践では、患者の意思決定を尊重する援助が行われたことを明らかにした。したがって、看護における患者教育は、政治や経済の発展に即しながら、看護基礎教育や臨床現場の実践を変革させてきたことを証明できた。 2つめは「看護における患者の自立がもつ意味に関する歴史的変遷」が、日本看護医療学会雑誌18巻2号31-40頁に掲載された。本論文は、患者の自立がもつ意味の変遷について社会科学の研究手法を踏襲した文献研究である。3種類の文献を収集し「戦後すぐ~1970年代」と「1980年代~2000年代」に時期区分した。患者の自立が語られている文脈に注目し、そこに含まれる意味の変遷を分析した。その結果、戦後すぐ~1970年代は、近世の看護理論の影響を受け、患者の「自立」はセルフケアの自立に見出されてきたが、それは一人ひとりに応じた目標であり援助を必要とする。1980年代~2000年代は看護者の倫理綱領の整備に伴い、「自律」という語が使われるようになった。患者の「自立」は、一人ひとりの患者の状況によって多様な意味を含ませてきたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(理由) 成果発表は、最終年度の平成29年に行う予定だったが、文献収集や分析が順調に進んだため、平成28年に2つの成果発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、患者教育が看護の専門性のひとつであることは歴史的に証明することができた。今後は「なぜ、看護には、教育という視点が必要なのか」という課題で研究を進める予定である。この問いを設定した理由としては、戦後という時代の中で、患者教育は看護にどのような痕跡を残してきたのか。むしろ患者の「権利」とのかかわりがあるからこそ、現在の看護の行動規範を築き上げているのではないかという問いに対する回答を意味している。患者教育と患者の権利が関係する戦後史を明らかにすることで、看護のさまざまな実践において,患者の権利はどのように保障されるべきなのかという、看護が果たすべき責任や義務を明らかにすることができる。また、看護職は、自らが実践している患者教育の歴史的意義を知ることでその価値を見出すことができ、看護に対する誇りをもつためにも有効であると考える。
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