2015 Fiscal Year Research-status Report
高校卒業後における不妊症予防教育プログラムの開発-新たなRH教育アプローチ-
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15K11661
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
秋月 百合 熊本大学, 教育学部, 准教授 (90349035)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 不妊症予防 / 妊孕性 / 健康教育 / 介入研究 / リプロダクティブヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
1.文献検討;欧米諸国の学会ガイドラインや関連文献をもとに妊孕性への影響要因を検討した。その結果、十分なエビデンスがあると思われる要因として、年齢、喫煙、体重が挙げられた。また、妊孕性の測定尺度として、Cardiff Fertility Knowledge Scale(Bunting, 2013)の13項目が有効であることがわかった。 2.人々の妊孕性に関する知識の把握;先行研究から、高校生、大学生、生殖年齢にある人々や不妊の人々の妊孕性に関する知識の程度を把握した。また、大学1年生を対象に、「妊娠・出産・妊孕性の知識に関する調査」を実施した。その結果、男女ともに妊孕性および不妊に関する知識は高くはなく、とりわけ男子は女性生殖器機能について、女子は男性生殖器機能について知識が乏しいことが明らかになった。 3.妊孕性の知識を組み込んだ中学校性教育の授業開発および実践;中学生に対する妊孕性に関する知識教育の可能性について検討し実施評価した。具体的には、中学校1年生37名を対象に、既存の性教育プログラム(「第二次性徴」「月経・射精」「生命誕生」の3回)の中に、生殖機能や妊孕性に関する知識として、女性は生まれた時から全卵子をもっていること、加齢とともに卵子が量的に減少し、質的にも変化すること、初経があれば閉経があること、男女ともに年齢、喫煙、体重が妊娠のしやすさに影響すること等を汲み込む形で実施した。実施後の生徒の感想を質的に分析し評価したところ、中学校性教育における妊孕性に関する知識教育の有効性が確認できた。 4.大学生向け不妊症予防教育プログラム(案)の検討と実践の試み;大学生向け不妊症予防教育プログラム(案)を作成し、パイロットスタディとして実施を試みた。大学1年生を対象にプログラム受講前後に妊孕性や不妊の知識を調査したところ、プログラム受講後に正答率が高まる傾向がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究計画では、文献レビューと不妊症予防教育プログラムの作成を主たる目的としていた。不妊症や妊孕性に関する知見およびそれらのリスク因子について、文献や国内外の関連学会のガイドライン、専門家の意見から、エビデンスをもとに収集した。それらを用いて不妊症予防教育プログラム案を作成し、パイロットスタディとして実施を試みた。プログラム受講前後に行った妊孕性に関する知識調査から、プログラム受講後に正答率が高まる傾向がみられ、当該プログラム案の有効性が示唆された。 また、当該年度の計画には入れていなかったが、大学1年生を対象とした「妊娠・出産・妊孕性の知識に関する調査」を実施することができた。大学生の妊孕性に関する知識として、女性の妊孕性への影響要因の知識は低くはないが、男性の妊孕性の影響要因の知識が低いことがわかった。また過体重が妊孕性にもたらす影響、不妊に関する知識は高くはなかった。これらの結果は、今後プログラムを精錬していく際に役立つと考えられる。 また、中学生を対象とした「妊孕性の知識を組み込んだ性教育プログラム」の作成と実践を行った。これにより、中学生は月経は知っているが閉経を知らない等女性のみならず男性の生殖機能に関する基本的知識を十分には持たないが、これらを提供することで肯定的な受け止めが可能であることがわかった。当該実践により、本研究の対象となる大学生の過去に受けた生殖に関する知識教育を推察することができ、このことも今後プログラムを精錬していく上で役立つと考えられる。 以上より、平成27年度における研究計画の遂行状況は予定通りであり、また計画以上の実施ができているものと考える。また、関連学会や雑誌で実践報告ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究実施の概要は以下の通りである。「不妊症予防教育プログラム」を完成させ、A大学1年生を対象に介入研究を行う。具体的には、平成28年度後期に実施することとし、プログラム受講前、受講後に妊娠・出産、妊孕性、不妊症および関連要因に関する「知識」「セルフケア意向」についてアンケート調査し、介入前後の知識や意向の変化を検討することで、プログラムの効果を評価する。 プログラムについては、内容が妥当であるかを確認し、教授方法については専門家の助言を受ける。研究遂行のための工夫策として、対象のリクルートは平成28年度の前期に行う。ある1年生対象の教養科目において、研究の説明を行い協力を依頼する。アンケートはプログラム受講前後で行うため、負担感が少なくなるよう質問項目の精選を行い必要最小限とする。受講前後の回答の変化をみるが、対象者の匿名性を担保するために、各対象者に番号を付与することとする。またアンケート回収ボックスを設ける。アンケート印刷やデータ入力等は、補助金を有効に活用する。 教育プログラムの実施に際しては、スムーズに進行するよう実行委員組織を立ち上げる。熊本県性教育研究会の会員の方々および熊本大学教育学部養護教諭養成課程に在籍する学部生・大学院生を中心に、組織化して実施する予定である。必要時、生殖医療の専門家、介入研究の専門家、患者団体、性教育の専門家等より助言をもらいながら進めていく。 その都度研究結果を国内外の関連学会にて公表していく。
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Causes of Carryover |
当該年度実支出額が、当該年度所要額より18,902円少なくなった。これは、所要額の約1.1%にあたる。当該年度の研究計画は、概ね計画通り実施できた。しかし、研究費の使用について、人件費や謝礼を予定を下回る額しか使用できなかったため、残額が生じたと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、組織的に健康教育プログラムを実施する予定であることから、残額は人件費や謝礼に使用する予定である。
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