2016 Fiscal Year Research-status Report
自然災害復興期における地域メンタルヘルス支援の開発
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15K11788
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩崎 弥生 千葉大学, 大学院看護学研究科, 教授 (60232667)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 尚子 千葉大学, 大学院看護学研究科, 特任准教授 (60583383)
望月 由紀 千葉大学, 大学院看護学研究科, 特任准教授 (70400819) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自然災害 / 復興期 / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
岩手県の津波被災地およびインドネシア共和国ジョグジャカルタの噴火被災地において、被災者の被災経験を中心に生活史を聴取し、被災から回復に至る被災者の経験とその意味を明らかにすることを目的とした。 対象者は、両被災地の再定住地で暮らす被災者27名(岩手県:男性8名、女性10名、計18名;ジョグジャカルタ:男性5名、女性4名、計9名)である。 調査内容は、被災から現在までの経験(被災直後から避難所での避難生活、仮設住宅での生活、再定住まで)、日常生活・職業・人づきあい・人生目標等の変化、変化に伴う苦労と対処、地域の回復・再生への関与、大事にしたい地域の伝統や文化、語り継ぎたい復興・防災の知恵、住民および地域の回復・再生を支えたものなどである。分析は、被災者個々の生活の再建、地域住民のつながりの回復、文化の継承の視点から行い、被災者の回復および地域の復興・再生を支えた要因を抽出した。 その結果、両地域の被災者に共通する大きな生活上の変化は、「地域に特徴的な生業(岩手県では漁業、ジョグジャカルタでは酪農)の規模の大幅な縮小」であった。変化への対処については、岩手県の被災者が稼業を継続するために新たな協働のあり方を模索しているのに対し、ジョグジャカルタでは試行錯誤しながら新たな経済活動に従事しており、経済活動の継続や創出が被災者の回復の鍵となることが示唆された。次に、両地域に共通する地域の再生を支えた要因のひとつは「宗教的・文化的伝統儀式の維持」であった。ただし、ジョグジャカルタでは信仰としての儀式が地域再生に寄与していたのに対し、岩手県では、祭りの復活を通じた住民間の結束の回復と子どもたちへの文化の継承が地域再生に寄与していた。なお、岩手県においては、地区単位では復興後の地域のつながりや文化の維持が難しくなっており、村単位で村の結束と文化の継承が、再定住後の新たな課題として浮上している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岩手県の津波被災地およびインドネシア共和国ジョグジャカルタの噴火被災地において、被災から現在までの経験、被災後生じた生活上の変化と対処、地域の回復・再生への取り組み、地域の伝統や文化、復興・防災の知恵などについて聞き取りを行い、被災者の回復および地域の復興・再生を支えた要因を比較、検討した。その結果、被災者の回復に寄与する要因として、経済活動の継続や創出のほか、家族の存在、近隣との日常的な交流、身体活動、災害の記憶の記録、被災後の生活変化の受容などが抽出された。また、地域の復興・再生に寄与する要因として、宗教的・文化的伝統儀式の維持や、祭礼を通じた住民間の結束の回復と子どもたちへの文化の継承のほか、非常時・日常時の相互扶助、被災地外からの支援、被災地外への情報発信、他の被災地への支援などが抽出された。これらの結果は、地域の復興・再生支援および地域メンタルヘルス支援を検討するための基礎資料として活用でき、今年度の研究目標は概ね達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、住民主体の地域メンタルヘルス支援の開発を目指す。これまで2年間の結果に基づき、人生やつながりの回復と歴史的文化的な価値や教訓の継承を軸とした住民主体の地域メンタルヘルス支援を検討する。当該支援については、Community Disaster Resilienceの考え方に基づき住民参加のメンタルヘルス支援を行っている海外の研究機関での聞き取りを併せて、支援を洗練し、岩手県において支援を行い、支援に対する住民の反応および支援に伴う変化を明らかにする。 対象者は、被災地の仮設住宅や再定住地で暮らす被災者と地域のリーダー(地域精神保健に興味があり、勉強会参加について承諾した者6~7名程度)とする。 研究方法は、アクションリサーチの手法に準じて行う。まず、「住民主体」の支援を開発するため、支援の開発段階から被災住民との間で話し合いと勉強会を進める。勉強会では、精神保健および精神障害者支援に関する基礎知識を提供するとともに、住民が相互に支援できる内容、方法、評価方法を検討し、住民のための支援の手引きを作成する。その後、支援の手引きを用いたシミュレーションを実施し、その結果に基づき支援の手引きを修正し、復興期における住民主体の地域メンタルヘルス支援モデルを検討する。
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Causes of Carryover |
専門家から専門知識の提供を受けたが、謝金の受け取りを断られたため、謝金に代えて謝礼品を渡した。そうしたところ、謝礼品の金額が謝金を大幅に下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
その他の経費として使用する。
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Research Products
(2 results)