2015 Fiscal Year Research-status Report
島嶼県沖縄の伝統型地域力が介護および介護扶養意識に及ぼす影響
Project/Area Number |
15K11852
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
與古田 孝夫 琉球大学, 医学部, 教授 (80220557)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古謝 安子 琉球大学, 医学部, 教授 (30305198)
豊里 竹彦 琉球大学, 医学部, 准教授 (40452958)
高原 美鈴 琉球大学, 医学部, 助教 (60522191)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地域力 / 地域愛着 / ソーシャルキャピタル / 生きがい意識 / スピリチュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、伝統型地域力(地域愛着、ソーシャルキャピタル(以下SC))に焦点をあて、住み慣れた地域で暮らし、終末期を迎えることを可能にする地域力の構成モデル構築の可能性について検討することを目的とする。今年度は本調査研究にあたり、予備調査として平成27年度に実施した沖縄のA小離島の解析を行い、得られた知見から調査内容をさらに精査し、次年度からの本調査にむけ調査内容の吟味を行った。 その結果、地域愛着とSCの「人への信頼」との関連では、地域愛着の「選好」、「感情」、「持続願望」のいずれもSC「人への信頼」との有意な関連を認めた。このことから、島固有の基層にある伝統的地域特性を基盤とした地域への愛着が、まわりへの信頼感に強い影響を及ぼしSCを高めたことが推察された。 地域愛着と生きがい意識との関連をみると、地域愛着の「選好」、「感情」、「持続願望」のいずれとの間でも生きがい意識との有意な関連を認めた。本結果から、慣れ親しんだ地域への愛着を基盤とした住民間の信頼関係や平穏・安寧な住環境が生活満足度や精神健康を高め、生きがい意識に肯定的に影響を及ぼす可能性が示唆された。 地域愛着とスピリチュアリティ(人生の危機に直面した際に意識化される人間の尊厳やQuality of life(QOL)を考える上で不可欠な概念)との関連では、地域愛着の「選好」、「感情」、「持続願望」いずれの間でも有意な関連を認めた。スピリチュアリティの本質は、人間の生きることの根元に関わり、自己の意識の根底をなし、人間に普遍的に存在することにあるとされている。地域はそこにあって住民の生活の基盤を成すものであり、とりわけ伝統的地域特性を有するA小離島など、祖先崇拝や伝統的祭祀や行事などに培われ、地縁や血縁関係により醸成された地域愛着が、地域住民のスピリチュアリティといった精神性にも肯定的に影響を与えたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述したA小離島の解析により得られた知見から、地域力が単に住民の紐帯や生きがい意識にとどまらず、スピリチュアリティといった終末意識に影響を及ぼす精神性にも肯定的に影響を及ぼす可能性が示され、本研究の目的である地域力の構成モデル構築に向け貴重な示唆が得られたことより、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
超高齢社会を迎えた現在、地域においては高齢者自身が積極的に相互交流し、主体的な介護生活を選択できる地域社会を創造する必要がある。そのためには、高齢者への介護サービス提供が住民の生活を維持発展させ得るような持続可能な循環サイクル(地域力)の醸成が必要不可欠であり、家族に依存しない地域社会の扶養能力の向上が期待される。住み慣れた地域で暮らす、地域で終末期を過ごすことを可能にする地域力とは、どのように形成されていくのか。地域社会の地域力と扶養能力向上は、離島・過疎地域のみの問題ではなく、人口減少高齢社会にむかう我が国全体の吃緊の重要な課題であると考える。 さらに、近年の沖縄における糖尿病、高血圧、心疾患などの疾病障害の急増やうつ病などの精神疾患に伴う自殺など、健康長寿の存続が危惧される現状は、地域密着型の包括的な地域力の構築の必要性と課題を示していると考える。このような現状のなか、地域密着型の地域包括ケア体制構築の取組みは、高齢者の介護や看取りのみならず、地域の連携・協働を高め、地域力の強化および活性化につながり、地域貢献への大きな成果となることが期待できる。 以上のことを踏まえ、本研究は沖縄の地域固有の伝統型地域力(地域愛着、ソーシャルキャピタル)が住み慣れた地域で暮らし、終末期を迎えることを可能にする地域力の構成モデル構築の可能性について検討することを目的とし、以下の観点から調査、検討を行う。 ①地域住民を対象とした伝統型地域力(地域愛着、ソーシャルキャピタル)に関する調査、②地域介護力の体制整備にかかわる調査、③高齢者をめぐる世代間ネットワークに関する調査、④生きがい感、暮らし意識に関する調査、⑤介護と看取り、介護・扶養意識に関する調査、⑥日常的儀礼行為(性役割)、伝統的祭祀・行事への参加状況、死生観に関する調査、⑦地域住民の葬法および遺族の面接による許諾調査
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Causes of Carryover |
当初計画通り本調査実施の予定であったが、再度調査内容を検討した結果、さらなる内容の吟味と精選の必要性が生じたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今回得られた知見もふまえ、次年度使用額に組込み本調査を実施する。
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