2016 Fiscal Year Research-status Report
独居高齢者の生活上の危機と危機管理の方法に関する研究
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15K11862
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
工藤 禎子 北海道医療大学, 看護福祉学部, 准教授 (00214974)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高齢者 / 危機 / 危機管理 / リスク・マネジメント / ソーシャル・キャピタル / 災害 / 1人暮らし |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、在宅で生活している高齢者の生活上の危機とその管理の内容を明らかにし、今後の危機管理の支援のあり方を検討するものである。研究課題の1つは高齢者が「もしも、万が一」という主観的な危機の内容を相対的に、量的記述的に明らかにすることである。もう1点は、在宅の高齢者における、身体機能低下に伴うリスクや、災害等の外的危機による生活のダメージの回避などのために、高齢者が生活の中で行っている対処・工夫を明らかにすることである。 研究の意義と重要性:平成28年度は2地域(A町人口約167,00人、B市C地区人口約7,800人)における郵送の悉皆調査を実施した。平成27年度の予備調査と自治体からの意見を踏まえて、実態に即しかつ高齢者支援の現場に有用なデータを得るための調査票の精度を高めることができ、回収率はA町51.3%(2,566件)、B市59.1%(1,726件)の計4292件を分析した。平均年齢75.2±7.3歳である。 高齢者が危機と感じる項目で半数以上の多数だったのは「災害」「屋外での転倒・事故」「心身の衰え」「断水・停電等の生活の障害」「認知症」だった。いずれも単独世帯の人が他の世帯形態の人に比べ有意に危機と認識する割合が多かった。危機への対処は、健康管理、防犯、火災予防などにおいて70%以上の人が実施していた。単独世帯の人は、緊急の連絡先の明示と安否確認をしてもらう工夫、近隣との危機時の話し合いの実施割合が高かったが、家屋の管理、火災予防・災害の備えの割合が低かった。これらのことから単独世帯の高齢者が人的ネットワークを活用した危機管理を実施しているが、火災や災害のための物理的環境の整備が課題であることを明確にした。今後の分析により、危機と危機管理の類型化と対象者特性に沿った支援を明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、研究計画に基づき危機と危機管理に関する先行研究からの知見をもとに、調査票作成と調査を実施した。計画以上に進展した理由は以下である。第一に、研究会において、近接領域の研究者・行政の高齢者支援担当者を含む多職種による討議から、研究目的を明確にするための調査票の精度を高めることができた。第2に悉皆調査の受諾、倫理審査及び、対象自治体の条例に基づく調査を多職種連携による検討を加え、個人情報保護を厳守しつつ、地域の全数を把握する調査手法を確立した。第3に調査の有効回答率の高さである。高齢者対象の郵送調査において、2地区とも50%を超える有効回答であったことは、住民、地域の支援者、自治体担当者の価値・関心、ニーズにあった調査内容だったためと考える。第4に、調査票のチェック、データ入力・クリーニングが済み、記述統計まで分析が進んだことである。これにより、平成28年度1月に日本公衆衛生看護学会学術集会でのワークショップでの本研究結果の報告、および平成29年度開催の日本老年看護学会、日本在宅ケア学会への研究報告の登録ができた。第5に、2地区の行政担当者への結果報告に加えて、一自治体では、民生児童委員協議会と介護支援専門員の定例会議で、調査結果を報告することができた。いずれも、地域での活動に役立てる示唆が得られる等の意見を得た。平成28年度の本研究の進捗は、当初の研究計画の全てを遂行し、調査対象者数と有効回答率が予定をはるかに上回り、調査の分析結果の公表、関係者との意見交換の実施等から、きわめて順調な進展であり計画以上の進展だったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は最終年度として、多変量解析などの分析を進めるとともに、調査対象地域のより小単位の地区別に、自治体職員、保健福祉専門職、民生委員、住民等へ研究結果の説明を行う。 対象地域の関係者への本研究結果の説明と討議により、研究の最終目的である、地域における高齢者の危機管理のあり方を明らかにできる見込みである。 研究結果は、公衆衛生、地域看護関係の学術団体、学会等での報告、論文の投稿等の形で公表する。また、新聞等、一般住民の目に触れる媒体にも情報を提供する予定である。
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Research Products
(5 results)