2017 Fiscal Year Research-status Report
震災復興の社会的責任―政府,事業者,被災者の役割分担
Project/Area Number |
15K11924
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
樺島 博志 東北大学, 法学研究科, 教授 (00329905)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 震災 / 法政策 / 公共政策 / 津波訴訟 / 原発事故 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,震災復興をめぐる法政策と公共政策を,法理学的観点から価値論的に評価することを目的とする。本研究独自の視座は,津波被害と原発被害にかかわる責任を,民事責任から国家行政責任にわたる連続的な“社会的責任”の観点から総合的に把握する点に存する。 平成29年度の研究実施計画は,原発事故をめぐる法的・政策的諸課題について,東京電力による損害賠償責任の実施状況,および,各地で継続している裁判の動向を踏まえて,分析することであった。まず,原子力損害賠償紛争解決センターを中心とした和解手続の制度化がなされ,これとあわせて,東京電力の損害賠償債務の財政的支援のスキームが構築されているところである。このことについて,昨年度末に,本研究者の属する東北大学で開催された国際シンポジウム「Japanese Studies as The Interface of A New Knowledge」において,"Thoughts about Fukushima Accidents"のなかの個別報告 "Rethinking TEPCO's liability for nuclear damages" として発表し,本年度はこれを英語論文の形でまとめて,Craig, Christopher (ed.): Knowledge and Arts on the Move, Mimesis 2018のなかで公表した。 このほか,原発事故を巡る裁判は,前橋,福島,京都,千葉,東京の各地裁で第一審判決が相次いでくだされたものの,いずれも現在控訴審に係属中である他,残り20件以上の訴訟が第一審に係属中であるので,各裁判例における慰謝料の算定や国家賠償責任の有無など,主要争点に関する分析は,引き続き研究課題として継続することとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に示したとおり,本年度の研究計画である原発事故をめぐる法的・政策的諸課題の分析の研究を遂行し,研究成果をまとめて,国際シンポジウムでの報告の機会を得て,英語論文として公表することができた。研究遂行の国際発信という観点からも,学際的な諸外国の研究者と意見交換をし,研究成果に反映させることができた。 また,この成果を,シンポジウム発表のみならず,担当授業である法理学演習および法科大学院での実務法理学IIの講義において教育面で活用することができた。 他方,本研究の研究対象の中心の一つである津波被災訴訟については,大川小学校事件の控訴審判決が当初の計画期間終了後の2018年4月に予定され,もう一つの研究対象である原発事故関連の訴訟についても,すでにふれたとおり,現在控訴審係属中であるか,第一審係属中であるため,当初の研究期間内で研究を終了することができなかった。したがって,研究期間を継続して,震災復興の社会的責任にかかわる政府,事業者,被災者の役割分担の解明に取り組むこととしたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は研究実施計画の最終年度でああったが,上記の通り,研究対象である津波被災訴訟と原発事故関連訴訟が,いまなお係属中であるので,裁判の経過を追跡し,これまでの研究成果に接続し,発展させることとする。理論面でも,最新の研究成果を盛り込んで,本研究者の属する東北大学法学研究科の紀要などにおいて成果報告をおこなう予定である。 現地調査,市民・実務家への調査など,被災地の復興と将来の防災にかかわるフィールド・ワークは,継続しておこなう。 また概要に示したとおり,これまでの研究成果を,国内外で公表してすることをつうじて,震災にかかわる法・公共政策の研究の蓄積に貢献することができた。 さらに,研究期間を延長することによって,本研究の成果を,法理論の理論的一般的分析枠組みである現代型訴訟という上位の理論枠組において,最終的なかたちで発表できるよう,理論と判例の両面からの研究を遂行する予定である。
|
Causes of Carryover |
研究計画の遂行のうち平成28年度以降について,津波災害の裁判判決として大川小学校事件控訴審,および,福島第一原発事件の群馬訴訟,福島訴訟,東京訴訟など各地の訴訟が係属中であるため,平成29年度内に研究計画を完結できない。また,成果発表についても,平成29年7月に予定していた国際法哲学会(IVR)第28回イスタンブール大会が政治情勢のために中止され,当初のエントリーをキャンセルせざるを得なかったので,当初予定していた成果発表のための旅費の執行ができなかった。
|