2016 Fiscal Year Research-status Report
津波被害を受けた民間所在歴史資料の歴史情報保存に向けた基礎的研究
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15K11925
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
天野 真志 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (60583317)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 文化財防災 / 災害対応 / 文化財保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、東日本大震災で被災した古文書等の救済・保存法の現状と課題について、カナダモントリオールで開催された American Institute for Conservation of Historic and Artistic Works にて研究発表をおこない、海外における文化財保存・修復現場との国際比較および情報発信を実施した。 また、宮崎において「第4回 文化財防災意見交換会」を開催し、宮崎県における文化財行政および保存担当者と現場における文化財防災の現状と今後の大規模自然災害に対する情報共有のあり方について議論を進めた。 4月に熊本地震が発生したことを受け、熊本県内で実施された文化財レスキュー事業で救済された古文書類の応急対応法について、現地で講習をおこなった。さらに、8月に発生した台風10号被害で被災した遠野市立図書館収蔵図書の応急対応を実践し、状況に応じた対応法の検討と、長期保存を想定した場合の課題とを総合的に判断する知見を得ることができた。 東日本大震災で被災した古文書類の現状を踏まえ、大量にカビが発生した紙媒体資料の対応に関する調査を開始し、姫路大学、大阪府立大学等と連携して生物被害をうけた和紙資料の滅菌法を検討し、和紙サンプルを用いてγ線照射を含む方法を用いた効果について調査を進めることで、現在各地で課題となっているカビ被害対策の方法論として提示する展望を示すことができた。 古文書に内包された情報抽出の可能性については、近世文書を想定した米粉を大量に添加した和紙サンプルをもとに、洗浄や蒸気などによる物性変化を調査し、文字情報を維持した救済に関する一定の効果を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに蓄積した成果を踏まえ国際学会にて研究発表を実施し、国内における文化財防災および保存体制における特徴を明確化することができた。 一方で、熊本地震や台風10号などの自然災害が発生したため、当該年度予定していた古文書料紙調査を軸とした文書料紙比較ではなく、各地で発生した被災文書と津波被害を受けた古文書料紙との触感や官能調査に基づく比較に留まった。しかし、歴史情報の検証については、次年度も継続的に実施していくとともに、豪雨被害を受けた古文書の事例を踏まえた、より複合的な成果を展望しうる情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに得られた検証結果を踏まえ、文化財保存修復学会その他で研究発表をおこなうとともに、地域歴史資料保全団体と協力して市民向け講座を開催し、諸地域で求められるニーズに応じた復旧・保存モデルを提示する。 あわせて、関連学会や各地域における意見交換を踏まえ、文化財防災に連なりうる分野横断型の学問体系の確立に向けた提起を進める。
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Research Products
(4 results)