2016 Fiscal Year Research-status Report
震災後三陸沿岸漁業における新たな秩序形成に関する研究
Project/Area Number |
15K11926
|
Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
阿部 高樹 福島大学, 経済経営学類, 教授 (40231956)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 健 福島大学, 経済経営学類, 教授 (80334001)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 沿岸漁業の秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
沿岸漁業は、共有資源の代表例であり、その管理には、特別の制度的組織的仕組みが必要である。特に問題となるのが、個々の漁家の行動と資源管理との調整であり、これまでは、個別の漁家が地域共同体の一員としての行動をとることを前提とした秩序が形成されてきた。本研究は、三陸沿岸漁業の震災からの復興過程における組織的対応が、震災前とは異なる新しい制度的な秩序形成に繋がるか否かを分析することを目的とし、特に「協業化」「地域共同体のあり方」に焦点を当てている。 今年度は、特に、復旧・復興に関わる政府の施策、主として補助事業が、共同化・協業化を前提としたものが多かったという事実に着目した。それらの補助事業について検討し、どれだけ、震災以降の協業化に影響を与えたかという視点で、宮城県石巻地方を選択して現地調査を継続した(牡鹿地区、北上地区)。その上で、これまで得られた知見の中間まとめとして、「宮城県の養殖漁業における新たな秩序形成について」(阿部高樹・井上健著、福島大学経済学会Discussion Paper Series No.101、2017年3月)を執筆した。補助事業は、震災直後の協業化に一定の影響を与えたが、その後の進展は漁業種類に依存するという傾向を掴むことができた。 「地域共同体のあり方」についても、震災以降の地域を越えた連携や、各種非営利団体の復興支援と地域との関係について、実際に活動の場に参加するなどして、知見・情報を蓄積してきた。研究論文執筆までには至っていないが、依頼原稿等を執筆しながら、考察の整理にあたっている(例えば、阿部高樹著「浜の未来を広げる『アウトサイダー兼インサイダー』の創造型復興支援」『Archi+Aid Record Book 2011-2016』2016年6月」) 今後は、これらの中間的なまとめを、研究論文に繋げていくことが課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災後の「協業化」の研究について、具体的な結論に向けた一つの方向性が見えてきている。震災直後から、効率的な漁業経営を図るという視点からの諸議論が政策レベルも含めてなされており、また、実際に、協業化を促進させる各種復興予算が組まれてきた(共同利用漁船等復旧支援対策事業、水産業協同利用施設復旧整備事業など)。 このような流れに対して、いくつかの地域で、漁業生産組合など、グループ経営を選択する動きが見られてきたが、継続的な観察により、その後の動向とその理由について一定の考察を加える段階に入ることができている。 例えば、予算補助を受けるためだけの形式的協業化から、実質的な協業化が進んだ事例まで幅広い対応が観察される中で、新規投資額が多額な業種、例えば、ノリやギンザケ養殖等では、実質的な協業化のメリットがあり、その後も継続的なグループ経営が行われている事例が確認できている。一方、カキ・ホタテ・ワカメ等でも、震災直後から協業化の動きが各地で見られたが、基本的に個々の漁家による個別経営に戻る事例も少なくない。 このように、震災後復興の多様な動きの中で、漁業経営の協業化による組織化について、一定の傾向をつかむことができており、さらに継続的な調査と考察を加えていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきた「協業化」に関する研究では、震災以降の政府の復興予算について「共同」を前提とする傾向があり、それへの対応としてのグループ経営化の動きについて考察を進めてきた。その中で、それぞれの事情の違いに応じて、組織的な対応が変わってくることが改めて確認できた。これらは政策に対する各漁師・各地区の対応という側面からの考察であった。これらについては、一定の方向性が得られている。 一般的に協業化・共同化は、技術的側面から見れば、重複投資を減らし、業務の最適配分により、個別経営よりも効率化を図ることができる。これらのメリットの一方で、「組織化」のためには、一定の運営コストが生じる。この運営コストについて、さらに考察を深める必要性を認識するに至っている。 したがって、震災後の漁業者の協業化・グループ経営の動向に関する継続的実態把握が、本研究の考察・分析の核となる研究活動となるため、今後も継続的に漁業団体の訪問調査を行っていく。 なお、共同漁業権や区画漁業権の行使の前提として、その地域への在住が前提とされているため、各漁業地区は、生業との密接な関連をもって強固なコミュニティを形成してきた。一方で、後継者不足の問題は深刻化しており、他地域の人材の地域への呼び込みや、居住要件エリアの拡大などが論点になる。このような漁業地域の新秩序形成についても、考察の範囲を拡大させていく予定である。
|
Causes of Carryover |
平成28年度で、次年度使用額が生じた主たる要因は、訪問調査地区の選定方針の変更にある。当初は、青森県・岩手県を含む三陸沿岸地域を広く調査対象と考えていたが、研究を進めるにあたって、特定の漁業団体、特定の地区に関する震災後の復興過程の「継続的把握」が重要であるとの認識に至った。そして、研究対象地区として主として宮城県を選択したため、相対的に旅費の執行に余裕が生じることとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度においても、前年度の訪問調査計画の方針、すなわち、調査対象調査地区(宮城県中心)を限定した形での「継続的な協業化実態の把握」は維持する。一方で、調査回数の増大によって、震災後変化をより詳細に把握することや、訪問漁業団体の拡大も計画し、これらに関する経費支出を見込んでいる。 また、研究資料の蓄積と分析が進むことによって、資料整理・研究成果発表に関わる経費の支出増も計画している。
|