2016 Fiscal Year Research-status Report
災害過程における市民活動の役割に関する社会学的研究
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15K11943
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
菅 磨志保 関西大学, 社会安全学部, 准教授 (60360848)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 祐介 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90253369)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 市民活動 / 災害過程 / 災害復興 / 被災者支援 / 知識移転 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は4月に発生した熊本地震により、本研究テーマに関わる事象が大きく動いた。まず東日本大震災後に改定された法制度・対応体制が適用され、過去にないセクター間連携が行われた。更にその過程で災害支援経験者により、災害対応に必要な知見を提供する場(情報共有会議)が創出されたことが特筆される。本研究でも過去の経験から将来の防災・減災に寄与する要素の抽出を目標としていることから、実際の連携支援に参与観察しつつ、過去の知見を現場に還元することを試みた(業績:2016年・招待講演)。これらから、市民による災害支援が、連携や資源動員に関して新しいステージに移行したこと、事例研究では生態的な検討に加え、実際の災害過程の中で過去の知識をどう移転できるかという動態的な検討の重要性が確認された。今後の検討に生かしたい。 東日本大震災の調査では、多くの復興支援団体を訪問する機会が得られ、昨年度の成果(業績:2016年出版・分担著書)を生かしつつ、今迄不十分だったミクロな支援過程の検討を行った。観察した支援事例において阪神・中越の支援過程と共通する要素を確認できたが、同時に支援の内容・体制が動員できた資源の質量に大きく規定されていたこと、かつてない規模の資源によって、復興段階への移行後も外部依存度の高い体制が維持された可能性があり、救援体制から復興支援体制への移行を検討する必要性も確認できた。分担研究者は、支援の運動的側面に焦点を当て、過去の調査で得た言説を再分析する形で、被災地における「市民社会」の形成とそれを担う市民活動が果たした役割を検討し、東日本大震災で見られた政府の失敗・市場の失敗・科学の失敗に対して市民社会による正当で公正な介入が十分に果たせていない現状、事態を見据えた「新しい市民社会」による本当の復興の姿が提起されていないことを指摘した(業績:2017年出版・著書)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熊本地震の発生により、本調査で対象とする災害事例(阪神・中越・東日本)の関係者や申請者自身も、現地支援に尽力することが求められたため、年度始めの3カ月間は、実質的な調査活動がしにくかったが、対象3事例の関係者が熊本に集まり、情報を共有しながら過去の経験値を生かしていく体制が構築されたため、熊本で中越・東北支援に関する情報収集を行うことが可能になり、調査そのものは実施できた。また東日本大震災の支援活動調査に関しては、助成財団の評価事業に参画する機会が得られ、その過程で行った支援団体の訪問を通じて本研究に必要な情報収集を行うことができたため、予想以上の成果を得ることができた。他方、2015年の時点で、2016年度に行う予定であった阪神・淡路大震災後の復興まちづくりと商業再建に関する調査、特に東日本大震災への知識移転に関しては十分に行えなかったので、最終年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2016年度の東日本大震災を対象にした調査で得られた課題を確認しておきたい。具体的には、救援から復興期への移行に伴う支援体制の再編過程を、活動資源との関係で確認しておきたい。これまでの調査研究から、また昨年度の熊本地震の事例調査から、救援段階から復興段階への市民活動の領域の関与の仕方が、災害支援における市民活動の位置づけを考えていく際の一つの指標となると考えられるからである。そのため、同じ視点で、並行して熊本地震の救援活動から復興支援活動の移行についても継続して観察していく。熊本における市民活動による復興支援体制は、救援段階の体制を継続する形で組まれていったが、外部資金を活用した救援期の生活支援に関わってきた支援者にとって、地元住民を主体とするの復興まちづくり活動のプロセスとその支援はイメージし難いと考えられ、既に課題も観察されていることから、阪神・中越の知識移転など実質的な支援と絡める形の調査活動を行うことを試みたいと考えている。 2017年度は、東日本大震災の市民による支援活動の検証事業に関わることになったため、こうした事業に研究成果を活用していくことも含めて、最終年度に当たる今年度は、まとめと総括を中心に進めていきたい。
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Causes of Carryover |
熊本地震の発生後、熊本への調査出張費用も発生したが、熊本県内で中越地震・阪神淡路大震災・東日本大震災の支援者と情報共有・意見交換をしやすい環境が創られ、熊本で他の3事例の調査を行うことができたため調査費を削減できた。また調査で得られたデータの整理・分析に関しても、大学からの緊急支援経費を充当することができた。 加えて、8月末と9月上旬に、助成財団の依頼で、東日本大震災の被災地・宮城県と岩手県で復興支援活動に関わる多数の団体を訪問・視察する機会を得たことで、復興支援活動に関する情報収集をこの事業と絡めて進めることができたため、調査費を削減することができたこと等による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度も、現地調査を行う必要があるため、調査にかかる旅費、収集した情報の保存・管理・分析に必要な物品・サービスの購入、情報処理作業等に対する謝金などに支出する。
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Research Products
(5 results)