2015 Fiscal Year Research-status Report
民俗芸能に関わる震災復興のための伝承形態の再構築―福島県の田植踊りを事例として―
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15K11946
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Research Institution | Koriyama Women's Junior College |
Principal Investigator |
上野 智子 (一柳智子) 郡山女子大学短期大学部, その他部局等, 教授 (20467054)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 俊夫 郡山女子大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (60465812) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 民俗芸能 / 震災復興 / 無形文化遺産 / 無形民俗文化財 / 田植踊り / 舞踊動作 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年東日本大震災後、復興の中期的位相という過渡的段階にある福島県の民俗芸能の伝承形態の再構築を目的とした研究の1年目である。本研究の事例として抽出した3つの田植踊り(「村上の田植踊り」「請戸の田植踊り」「室原の田植踊り」)の伝承者たちは、元の土地とコミュニティーから切り離されてもなお、民俗芸能の上演機会を有効化し、絆のこころを生活の糧としてきた。伝承者に寄り添い、かつ稀有な状況下での民俗芸能の伝承方法の再構築をめざし、文献研究はもとより、聞き取り調査と映像収録を中心に研究を進めた。 「村上の田植踊り」については、震災後平成27年3月に福島県の無形民俗文化財に指定されたことに伴い、福島県及び南相馬市に対して、指定に際の文書開示及び指定時の状況を聞き取り調査した。さらに、当該芸能の保存会の方々に震災後の状況を聞き取り調査し震災後の状況を確認しラポール構築を行った。震災後、故地を失った民俗芸能の無形民俗文化財指定行為は、種々の課題を提示するものである。本指定行為に関する問題は、当初の研究内容に組み込んではいなかったが、今後考察の重要なポイントとなるものであることに鑑み、調査内容に盛り込むこととした。 次に、「請戸の田植踊り」は、震災後すでにラポールは構築済であり、研究代表者の担当授業への外部講師として招聘してきた。そして、民俗芸能の効能によって教育的効果を創出し、当該芸能の伝承形態の新たな方策を模索することができた。 「室原の田植踊り」の方々への、聞き取り調査等に関しては、保存会の方々と研究代表者および研究分担者との日程調整がつかず、次年度へ繰り越すこととなった。 また、国立民族学博物館での国際会議における無形文化遺産の枠組みとしての民俗芸能の議論は、今後の研究の重要な視座となった。本年度の研究成果は、東北大学における共同研究等において口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、文献研究と並行して、ラポール構築のためインフォーマントへの聞き取り調査と一部映像収録を、おおむね予定通り行うことができた。本研究の事例としてあげた3田植踊り(村上の田植踊り、室原の田植踊り、請戸の田植踊り)の研究の進捗状況はそれぞれ次のようである。 「村上の田植踊り」については、保存会長及び事務局長に対する聞き取り調査を実施することができた。また、震災後の貴船神社における神事での映像収録はできなかったものの、福島県無形民俗文化財に指定された事に伴い、指定理由調査のため、福島県文化財課および南相馬市文化財課を訪問し理由書等確認することができたことは、研究を進めるにあたって当初にない課題の発展であった。「請戸の田植踊り」に関しては、伝承形態の一つの模索として、本学における伝承者の方法による授業実施は、伝承の現場のみならず教育過程での新たな提案となった。さらに、踊りの動作と構造分析により当該動作伝承をさらに詳細に把握することができたことは、複眼的視点を得る結果となった。神事に関わる奉納の映像収録および保存会会員の一部に対する聞き取り調査は予定通りの実施することができた。「室原の田植踊り」に関しては、インフォーマントとの聞き取り調査の調整ができず、未実施となった点は、次年度の第1の課題として残った。 平成27年度末、国立民族学博物館での文化人類学的知見による日本の無形民俗文化財の在り方と防災を議論する国際会議に参加した。この議論は、国内のおける民俗学的視点に加えて、国際的見地を設定するものであり、本研究をさらに深化させるための重要な視座をあたえるものとなった。 平成27年度の研究成果を東北大学共同研究等において口頭発表でき、大方の意見を受けさらなる熟考の資料とすることができた。したがって、聞き取り調査、映像収録、成果発表等おおむね予定通り進められているということができる
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Strategy for Future Research Activity |
当初設定した3田植踊りは、被災民俗芸能という観点により並列的に事例化したが、その後「村上の田植踊り」が、南相馬市を経由することなく福島県無形民俗文化財に指定されたことに伴い、各団体間に温度差が生じることとなった。したがって、今後調査研究を進めるにあたって、この点配慮すべき重要な要素が追加されることとなった。 さらに、震災後5年が経過し、これまでの状況と確実にフェーズがシフトしてきた。しかし、「室原の田植踊り」と「請戸の田植踊り」の故地である浪江町の一部の避難指示が平成29年4月解除されることは、当初の想定の範囲内であった。この解除に伴い、浪江町および福島県の行政的動向はもとより、それに対応した住民の方々の意向に関わる今後の動向は、これまで以上に十分に配慮したうえで調査を進めていかなければならない。 映像収録に関しては、平成27年度映像収録の未実施であった「村上の田植踊り」と「室原の田植踊り」を中心に進める。このうち「室原の田植踊り」が最も上演機会が少ないのが現状である。それぞれの舞踊動作分析に関して、映像収録が不可能な場合、新規収録ではなく、従来の保存版の提供を依頼するなど柔軟な対応が必要である。 平成28年度中には、3田植踊りに対する映像収録及び聞き取り調査を終了し、平成29年度に向けて3田植踊りの保存会関係者による情報交換会への予定調整を行う。また、福島県における田植踊りの歴史的伝播経路に関する従来説の検証を行うため、同じく被災地域として同定されている相馬文化圏全体に調査範囲を拡大すること及び隣接文化圏である宮城県沿岸地域に対して比較考察対象の拡張を推進していく予定である。 最後に平成28年度は、平成27年度の研究成果を論文または報告書として上梓する予定である。
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