2015 Fiscal Year Research-status Report
現代リスク社会の変容における公共政策の役割:公共政策と「不確実性」
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15K11965
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
清水 美香 京都大学, グローバル生存学大学院連携ユニット, 准教授 (10741796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大谷 竜 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (50356648)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学際性 / 俯瞰性 / 公共政策 / 防災政策 / 不確実性 / リスク社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代リスク社会に対応するための公共政策のあり方を追求する一環として、その現代リスク社会の特徴である「不確実性」に焦点を当て、「不確実性」と公共政策の連関性を浮き彫りにすることを目的とする。特に東日本大震災における「地震予測」をケースにして、科学的知見における「不確実性」がどのように専門家の間で扱われ、それがどのように政策関係者に伝えられ、政策形成・決定に繋がったのかを検証することを通して、公共政策において「不確実性」を扱う上での課題を明らかにし、最終的に今後の現代リスク社会が抱える「不確実性」を扱う上でのより良い公共政策的方法を提案するものである。
公共政策的視点を軸とする本研究は、様々に散らばる情報・専門的知見を「点」でなく、点を繋ぎ合わせ、俯瞰的アプローチを通して政策知までの工程を重視することを特徴とする。特に、大規模地震の予測と、それに基づく被害軽減のための防災対策は、理工学分野の科学技術領域のみならず、予測結果の政策への反映や市民を巻き込んだ防災対策など、多様な学際的領域が関係していることは明らかである。しかし現状として、防災研究分野も他の学問分野に漏れず、学問の細分化・専門化が進んでいるため、学問分野間に存在する境界領域的な問題に関しては十分研究が深められているとはいえず、このため様々な貴重な研究結果が政策や市民の生活に反映されることが阻まれる状況が散見される。こうした現実を重視した研究が進められている。
本研究の意義または重要性を端的に述べると、これまで公共政策と科学者それぞれの専門家が異なる領域から取り組んできた現状に楔を差し、俯瞰的アプローチを通して、実際の事例と政策過程の詳細な検証を踏まえてより問題解決志向の研究を行い、より良い日本の防災政策に貢献するということに集約される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年目である平成27年度は、東日本大震災の前後に焦点を当て、1)科学的情報・予測過程の検証、2)「予測」が政策サイド・国民に伝えられるプロセスの検証、さらには3)不確実性に対するより良い公共政策的方法を追求する研究の一環として、米国専門家との対話、また米国の事例や関連する政策や仕組みとの比較についても重点を置いて研究が進められた。
特に1)および2)については、既存の関連の研究文献を洗い出すとともに、その既存の研究文献では見出せないものについてさらに研究を発展させるべく、国の地震調査研究関連機関の議事録、文献調査研究を中心に行うとともに、さらには地震予測に関わる専門家らとの対話を行うことを通して研究を進めた。3)については、米国の中でも、現代リスク社会の変容と関連が深い、地震、津波、火山、気候変動による海面レベルの上昇といった様々なリスクに直接晒される傾向にあるハワイ州に焦点を当ててフィールドワークを実施した。個々のリスク・不確実性を扱う、あるいは各リスクを網羅する包括的取り組みを行っている関連の研究機関の研究者や政府機関の担当者と、本件に関わる意見交換、情報・知識共有を行い、米国において科学的知見における「不確実性」がどのように専門家の間で扱われ、それがどのように政策関係者に伝えられ、政策形成・決定に繋がっているのか、各システムとそのシステムを取り巻く環境、それぞれのシステムの関係性を構造的に検証する研究を進めた。
こうした研究成果の一部として日本および米国で開催された研究会・学会で発表を行い、さらにそうした広く開かれた学際的な発表の場を機会を通して現在進行中の研究に磨きをかけている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、特に28年度の推進方策として3本の柱を据える予定である。第一に、昨年度の日本の状況に関する研究の取り組みを踏まえて、1)東日本大震災およびその他日本の個別地域における科学的リスク(不確実性)情報に関わる事前評価システムおよびその中身の検証、2)それに関わるリスクコミュニケーション、政策形成過程、政策決定過程の検証、3)1)および2)を踏まえた減災対策、それに関わる実施状況に焦点を当てる。
第二に、本研究テーマに即して、地震学による科学知識を社会の中でいかに有効に活用し、政策や市民の生活に活かしていくかという観点から、そうしたことを実現するためには何が今不足しているのか、今後何が必要かに関して、学際的に多様な学問領域における専門家をコアに据えたワークショップ開催の準備を進めている。定期的にこうした対話の場を設け、その際できるだけ具体的な事例を通じて、より実践的な解決法の議論を深められるような方法を採用する予定である。またこうして得られた知見に対して、“policy brief”(注:異なる研究者協働で、政策課題について現状を精査した上で、何が現状において問題かを指摘し、代替的問題解決方法を端的に提示し、政策関係者や市民に分かりやすく簡潔に示すための記事)のような形で社会に対して発信していくことも今後、視野に入れていく。
第三に、1年目の米国の事例研究をさらに進め、日本の現状との比較において、米国事例から引き出される可能性と課題を踏まえた上で、日本にどのような政策的インプットを提供できるかを具体的に検証していく。
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Causes of Carryover |
研究分担者である大谷竜が、当初予定していたPC購入などを本年度行わず、次年度以降の購入の方向であるため。また同人が、当初予定していた東京→京都への出張の回数を減らしたため(研究責任者・清水が代わりに東京へ出向きミーティングを行った)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記以外については、順調に進められている研究のための研究費を予定どおり支出しており、今後も申請・請求したとおりの研究を進める。上記次年度使用額となった理由にある大谷のPC購入については次年度以降購入を進められる方向であり、必要に応じて大谷の京都への出張が次年度行われる予定である。
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