2015 Fiscal Year Research-status Report
次世代ものづくり技術の基盤たるエミュレータ・デザイン学創成に向けた数理戦略立案
Project/Area Number |
15K11999
|
Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
樋口 知之 統計数理研究所, その他部局等, 所長 (70202273)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 統計的品質管理 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
データ同化とは、複雑な現象の高精度予測のために、時空間観測・計測データの解析と数値シミュレーション計算を統合することにより、シミュレーションの初期値や境界値、パラメータ等を実際の現象をなるべく再現するように定め、時にはシミュレーションモデル自体にも手を加える(リモデリング)一連の計算作業である。本研究では、データ同化の考え方を研究推進の基本指針として、データ科学、シミュレーション科学、およびセンサー技術を三位一体化した、エミュレータ・デザイン学を創りだすための数理基盤の整備に取り組む。初年度は、エミュレータ・デザイン学の数理の基盤構築に必要な数理要素技術の洗い出しと、本課題と関連する先端的な研究所への訪問等を含めた調査研究を行った。具体的には、アメリカ統計連合大会やアジア・オセアニア地区の計算機統計学会等の統計関係の国際学会に参加し、シミュレーションと統計数理のコミュニティ間の認識ギャップ等について調査し、利用されている数理要素技術の洗い出しを行った。あわせて、参加者らとの議論を通じて言葉と概念の整理もすすめた。また、本研究所データ同化研究開発センターと交流実績のある、東北大学流体科学研究所の教員やJAXA(航空本部)の研究者と時折議論することで、先進的センシング技術が計算モデルと統合されることによって得られる価値についても調査し、次年度計画のエミュレータ・プロトタイプの構築が具体的イメージをもって着実に進められるように準備作業をすすめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
産業界等も含めて実務者レベルでは、本研究課題のニーズは相当なものであることは研究者にも深く認識されている一方で、具体的にどの切り口からどのようにすすめるかが模索されていた難問に挑戦するものである。従って、主たる目的である調査研究が進んだかどうかが初年度研究結果の達成度を測る観点となる。今年度は、統計関連や地球・宇宙科学の国際学会において、シミュレーションと統計数理のコミュニティ間の相互協力により実現された特別セッションに参加あるいは招待講演を行い、参加者とのフロア内外での充実した議論により得るものは大きかった。特に、本研究課題解決への、ガウス過程回帰や、その古典版とも言えるクリギング、また次元削減を目的としたスパース回帰などの技術群への期待感は、国際的にも共通していることが確認できた。また、東北大学流体科学研究所のデータ同化研究者、北陸先端科学大学の材料開発関係のシミュレーション研究者、NIMSが担っているJSTイノベーションハブ事業(マテリアルインフォマティクス)に参加している研究者らとの意見交換により、多面的な考え方を数理的視点から整理できたことは大きな糧となった。これらの理論方面での調査研究は大きな進捗があったが、具体的なエミュレーション実験の実施に向けた情報収集作業はあまり十分とは言えなかった。よって、総合的観点から、おおむね順調に進展していると自己判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度にある程度準備する予定であった、データ同化、さらにはエミュレーション用のシミュレーションの題材選定について調査作業を継続する。シミュレーションのソルバーは、研究課題が短期間であることと、その性質上、新たに開発することは不可能であり、既存であることが選定上の必須条件となる。また、ソルバーを逐次データスケルトンプログラムから呼ぶためのスクリプトプログラムを開発する必要があるため、その点についての試行実験を行う。進捗が芳しくない場合は、本課題の主たる目的はあくまでもエミュレーション用の数理基盤の整理と確立であるため、手元にある扱いに手慣れたシミュレータを元にした双子実験の枠組みを利用する。また、同化させる目的変数もさまざまなものが考えられるため、その選択を含めた観測モデルの同定に時間がかかることも予想される。その場合は、データ同化結果でなく、通常のシミュレーション結果に擬似的なノイズを混在させた結果により、エミュレ-ション実験に臨む。エミュレータを構築するために、このデータ同化の結果を用いて、ガウス過程回帰によるパラメータ相互間の依存性を考慮したスパース回帰を複層的に行う。得られたエミュレータを用いて、パラメータに対する目的変数の応答曲面を構成する。その一方で、エミュレータを経由せず、少数のシミュレ-ション結果から、応答曲面を直接求める方法も検討する。そのため、高次元パラメータ空間内の移動とサンプル(テストパラメータ点)の配置を自律的に逐次学習するアルゴリズムを考案する。これらの改善工夫を行うとともに、適切なセンサー情報の獲得および入力の方法について検討する。成果を学会等で発表するとともに、統計的品質管理の分野の方から意見をもらうため国内および海外出張を行う。
|
Causes of Carryover |
エミュレーションへの期待が想像を上回るスピードで高まり、さらに何と言っても、国内の多方面の研究者から研究の方向性について招待講演の依頼が相次ぎ、その結果、当初想定していた旅費に余裕ができたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
統計関連の学会等に積極的に参加し統計的品質管理の分野の方から本研究のねらいや方向性について意見をもらうことと、シミュレーション実務者との議論を通して、エミュレーション実験に適切な規模のシミュレーションの題材選定作業をすすめること、この二つを中心とした目的実現のための国内および海外出張費用に当てる。
|