2015 Fiscal Year Research-status Report
トリックアート原理に基づく簡易マルチディスプレイ3次元映像表示環境の開発
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15K12034
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤代 一成 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00181347)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
茅 暁陽 山梨大学, 総合研究部, 教授 (20283195)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 3次元錯視 / 立体ディスプレイ / 視線追跡 / 没入感 |
Outline of Annual Research Achievements |
安価ながら効果的な3次元表示を可能にするユビキタスディスプレイシステムの開発は,今日のビジュアルコンピューティング分野におけるきわめて重要な課題の一つである.本研究では,近年大きく注目されている3次元トリックアートの錯視効果に着目し,市販の狭額PC/タブレット画面を複数枚互いに直交するように配置し,内蔵ウェブカメラで追跡するユーザ視線に合わせて,表示コンテンツをリアルタイムに微調整するだけで,個人を対象とした高解像度の3次元映像表示を手軽に実現できる環境を開発する. 初年度である今年度は,まず関連研究調査により,注目した3次元トリックアートの錯視効果の源流が古来から知られている「アナモルフォシス」にあることを突き止めた.提案立体視システムは,これに「視線追跡」を組み合わせることで,任意視点からの立体像生成を可能にし,さらに「運動視差」の効果も付与させることで,得られた効果をさらに増強するものであるという位置づけが可能となった. この原理に基づき,実働する基本システムを開発した.同システムは直交配置された2枚のディスプレイで稼働可能であるが,もう一枚補助的ディスプレイを直交配置することで,側方背景画像をシースルーにし,投影像と併合させ,表示コンテンツにポップアップ効果を加味できるAugmented Virtualityの活用可能性も実証した. その一方,運動視差効果を維持するには,両眼視差のキャンセルが効果的である.それを実現するために両眼から見えている共通領域を障害物により遮蔽する基本アイディアを着想し,その効果を確認できた. 以上の表示効果を実証するために視線追跡実験を実施した結果,接続ベゼルでの揺り戻しなく,表示コンテンツをなぞる視線変化を実際に確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の実施計画では,①関連研究調査,②提案環境の基本システムの設計・実装,③3次元表示効果測定系の開発の3点を挙げた. ①については,国内外の関連研究者を計3名招聘し,最新の専門知識の提供を受けるとともに,徹底した作品・文献調査により,「アナモルフォシス」という当該技術の原点となる錯視現象の存在を突き止めることができた.また先行研究から続く,運動視差を考慮した実時間視線追跡による立体視表示に関する基本業績は,国内学術誌に論文として公刊できた. ②については,PCおよびタブレットを用いた当該基本システムの開発に成功している.①の成果と合わせ,国内最高峰の関連会議録に論文が採録されるとともに,慶應科学技術展での展示発表も実施し,ともに多くの貴重なフィードバックを得ている. ③については,基本的な視線追跡実験により,被験者が当該システムの利用中に3次元像を意識している事実を確認することができた.現時点では採否は未定であるが,本点に関しても,国内学術誌に速報を投稿済である. こられに加えて,複数ディスプレイ構成による情報量増加の可能性の一つとして,タイル状ディスプレイとHMDの組合せに関する国際共同研究も並行して開始し,集中的に試験的実装した初期システムの成果を国際会議で発表することもできた.さらに,利用者とシステムの入出力がループ状になるアフェクティブ系への拡張,局所オーディオとの連動可能性等に関する関連研究の国内発表2件も行った. 以上より,当初の計画以上に計画は進展していると評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度には,特に次の3点を追究し,本研究を総括する予定である. ①提案システムの性能向上:視線の挙動解析を増強し,コンテンツ表示の適応性を向上させるとともに,誘目的な強調レンダリング効果やさらに洗練させたAugmented Virtuality表示を組み合わせることにより,立体視表示性能を向上させる.当初から個人を対象としてシステムを開発してきたが,複数人による同時利用に対応させるために,表示コンテンツの歪度を最適化する方策についても考察する. ②没入度の推定:3次元表示効果だけでなく,仮想空間への被験者の没入度を推定する計測系の拡充を図る.こちらについても複数の利用者への対応を考慮する. ③適用可能コンテンツクラスの同定と応用の模索:提案表示系に適したビジュアルコンテンツクラスを同定するとともに,効果的な応用を模索する.有力候補としては,現在代表者の研究室で別途研究を進めている時系列多次元情報可視化技法TimeTubesやパブリックディスプレイを用いたポップアップ広告システムが挙げられる.
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Causes of Carryover |
本年度は主としてシステム開発を中心に研究を進めたため,視線追跡装置を利用したユーザ評価実験は初期的成果を挙げる範囲に留まってしまった.そのため被験者謝金や実験データ整理に係る費用を予定どおり計上することができなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
視線追跡評価は予定どおり分担者を中核に進める.未使用の助成金を加え,より広範で組織的で綿密な実験を展開する.また,最近になって安価で本資金内で調達できる視線追跡デバイスが発表されたので,代表者の機関でも追加購入し,システム開発に即応した視線追跡実験を並行的に実施し,本来の評価実験と相補的な役割を分担する.さらに,当初の予定に入っていなかったタイル状ディスプレイとHMDの連動による表示系に関しては,国際共同研究の実施に必要な経費に配分する.
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