2015 Fiscal Year Research-status Report
ファシリテーションとしての環境に生きる生物の認知様式
Project/Area Number |
15K12054
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
郡司 幸夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40192570)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 論理的誤謬 / フレーム問題 / ファシリテーション / ベイズ推論 / 逆ベイズ推論 / ゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
ブール代数の論理演算計算に関する効率、頑健性、汎用性を高めるための技術として、生物的な知覚・認知を実装する可能性を評価している。その一つは、論理和と論理積の区別と混同を適宜行うような操作であるが、これがファシリテーションの存在する環境で実現されるという実験結果を得ている。論理和は複数の状況からの選択を意味し、論理積はすべての状況を満たすことを意味する。両者は論理的に全く異なる操作であるため、その混同は通常、誤謬と考えられる。しかしこの混同操作は、人工知能の問題であるフレーム問題や、シンボルグラウンディング問題を解消する操作と考えられる。「A氏は好人物である」と判断することのきっかけが一個の状況におけるA氏の好ましい振る舞いだったとしても、最終的判断のためには、任意の状況におけるA氏の好ましい振る舞い、すなわち無限個の状況に関する証明が必要となる。これは原理的に不可能だ。しかし、論理和と論理積の混同は、有限個の状況での判断を、全ての状況での判断に摩り替えることで、これを可能としてしまう。こうして論理的不可能性を有するフレーム問題は、論理的誤謬を担う混同操作によって現実において解消される。 本研究では、このような混同操作が、ファシリテーション(大域的受動者)の存在する環境で実現されることを、ゲーム的環境によって証明した。この結果は、NatureのOpen Access雑誌であるScientific Reportsに投稿され、3人の差読者に非常にクレバーで独創的な実験であると評価され、修正後二度目の査読に回っている。 またファシリテーション(大域的受動者)が事前の大域性(確率空間の拡大)と事後の受動性によって実現されるというモデルを考案し、これを実装する逆ベイズ推論の構築を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、ファシリテーションを、空間中のエージェント間相互作用のみで規定し、マルチエージェントによる相互作用の場を想定していた。またファシリテーションの実装によって、kSATの計算に関する効率のみを想定していた。しかしファシリテーションは、大域・局所に留まらず、階層性のある状況で、高次階層における受動性と低次階層における能動性が相補的に作動しあうメカニズムによって一般化できることが発見され、ゲームを用いて人間の認知にこれを見出す実験が計画され、実施された。その結果は想定していた以上の結果であり、一般化されたファシリテーションが、論理和と論理積の混同を自己組織的に実現するという結果が得られた。この結果は、人工知能の本質的問題である、フレーム問題や、シンボルグラウンディング問題を解消する操作であると考えられ、より大きな普遍的問題への解決をみる技術であることが理解されつつある。 また高次階層における受動性と低次階層における能動性を確率論において展開することが可能であり、前者は効率のような評価を無視して確率空間を変える逆ベイズ推論、後者は与えられた確率空間を変えずに効率を追求するベイズ推論、によって実装可能であることが明らかになり、その構築を進めている。ベイズ推論は脳科学・認知科学で絶大な威力を発揮しつつあるが、確率空間を拡大・変質する逆ベイズ推論については全く考えられていない。しかし、クオリアの提案以降問題となっている意識のハードプロブレムを解決すると目されている中立一元論は、ベイズ推論と逆ベイズ推論との相補性によって初めて実装可能と考えられる。逆に言うと、ベイズ推論と逆ベイズ推論との相補性は、単なる計算の効率・頑健性の問題を越え、意識と計算(自然科学)の二元論的問題を中立一元論によって突破する方法と考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
ファシリテーションの実装を高次階層における受動性と低次階層における能動性の相補的運動によって一般化するが、これに関して3つの方向を展開する予定である。 第一に前述のゲーム的展開である。これはゲームのモードを複数用意し、モードを選択する高次階層とモード内で得点を競う(効率をあげる)低次階層とを用意し、高次階層を司るプレーヤーと低次階層を司るプレーヤーによって、論理和と論理積の区別と混同がどのように出現するかを評価するものだ。この認知実験による第一の結果は得られているが、70人に及び一つの実験が3時間を要する大量の実験データは十分に駆使されておらず、これを用いて、プレーヤーの想定するゲーム空間がどのように拡大・縮小するか評価し、第二の論文を進める予定である。 第二にベイズ推論と逆ベイズ推論との相補性による実装である。これについては急激な変化に対応するモデルとなることや、ブール代数を結果的に貼り合わせた非ブール代数を帰結する結果が得られており、論文として作成中である。この結果は意識の中立一元論との接続をも意味する極めて重要な理論足り得るので、自然科学と哲学の境界領域で一般的論文も著し広くアピールする予定である。またこのモデルをミナミコメツキガニなど動物の群れについても適用し、モデルとデータとの照合をする予定である。 第三に高次階層における受動性と低次階層における能動性において、前者を身体イメージの所有感に、後者を身体イメージの操作感に置き換え、両者の動的相補性を確かめる認知実験を進めると共に、そのモデルを空間の必要条件的近時と十分条件的近似との調整によってモデル化し、実験結果との照合をする予定である。 以上のように、一般化されたファシリテーションによって、意識のハードプロブレムを解決する理論と実験の構築へと大きく転回するつもりである。
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[Presentation] 群れにおける内部予期2015
Author(s)
郡司ペギオ幸夫
Organizer
CBI学会・分子ロボティクス分科会
Place of Presentation
タワーホール船堀、東京
Year and Date
2015-10-27 – 2015-10-28
Invited
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