2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K12067
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
杉原 厚吉 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任教授 (40144117)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 立体錯視 / 不可能立体 / 変身立体 / 錯視効果 / 展開図 / 3Dプリンター / 図形の距離 / 厚みの制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、二つの方向から見たとき全く異なる断面をもった柱体に見える新しい錯視(これを多義柱体錯視と名付けた)の仕組みを明らかにし、その錯視が生じる立体の設計法を確立することである。 本年度は、平成27年度に構成した多義柱体設計アルゴリズムの出力から、立体を展開図に変換して紙工作で作るための方法を開発した。この場合には、形状を固定するために柱体の断面形状も与えなければならない。そして、錯視効果を高めるためには、この断面がどちらの視点からも見えないように隠さなければならない。これらの制約を追加した場合に立体が存在するための条件を明らかにし、その展開図描画法をソフトウェアとして実装した。 多義柱体設計アルゴリズムの出力は柱状の曲面であるが、これに厚みを加えて3Dプリンターを用いて合成樹脂で作る方法も開発した。ただし、曲面を少し縮小して柱体の内側の面にするという単純な厚みの与え方では、錯視効果が減るため、錯視効果が残るように厚みと端の切り口の角度を場所ごとに制御する方法を開発した。 さらに、多義柱体を人が知覚するときの心理学的側面についても調べた。設計した柱体が本当に望み通りの錯視効果をもたらすかどうかを実験的に調べた結果、片方の目をつむった状況ではほぼ確実に望み通りの知覚が生じることがわかった。これは、脳が奥行き情報のない場面では、柱体の端の曲線を軸に垂直な平面で切断してできた切り口と解釈することによって生じるものであると理解できる。一方、両方の目で見たときには必ずしも望みの形が知覚されるとは限らないこともわかった。 初年度に発見した安定性の非常に高い多義柱体がなぜ生まれるかについても考察した。その結果、知覚してほしい二つの図形の近さが大きく影響することがわかった。特に、幾何学的な図形の距離は小さいが、心理学的距離は大きい場合にこれが顕著であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、多義柱体を紙工作で作るための展開図の描画法の構成とそのソフトウエア実装、3Dプリンターで制作するための厚み制御とデータ変換、錯視の強さに関する実験的観察などを、本研究期間内に行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に構築した多義柱体を紙工作で作るための展開図の描画アルゴリズムは、平面で構成される柱体に対するものであった。このアルゴリズムを、次年度には曲面を含む多義柱体へ拡張する。曲面の場合は、それを、柱体の軸に平行で幅の狭い多数の短冊状の平面多角形に分割し、その集まりよって近似的に表現する。そして、その形を固定するために、柱体の断面形状も多数の頂点を持つ平面多角形で近似して生成する。そしてその断面構造が最終的には見えないように配置できるための幾何学的条件を明らかにし、それに基づいてアルゴリズムを実装し、その性能を評価する。 多義柱体を3Dプリンターで制作する方法も構成したが、強度を保つための厚みの付け方が、視覚効果という立場から見た時、まだ不十分である。理想的には、二つの方向から見た時見えてほし図形が、それぞれ一定の幅を持った図形に見え、さらにその二つの幅が等しいことが望ましい。しかし、これらの条件をすべて満たすことは、多義柱体が存在するための条件と両立しない。したがって、できるだけ望みの厚みに近くなるような次善の方法を構成する。ただしその方法は一つには定めることができないから、図形の形状、残したい特徴、強調したい視覚効果などに応じて個別に選択できる複数のアルゴリズムを構成する。 多義柱体錯視の教育分野やエンタテインメント分野への応用方法も開拓する。特に、科学博物館などにおいて、目でものを見る仕組みという身近な話題の中に不思議さが潜んでいることをきっかけとして、サイエンスへの興味を引き付ける素材としての表示方法を開発する。また、エンタテインメントでは、大型の立体モデルを使った観光産業への貢献の可能性なども探る。
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Causes of Carryover |
研究の中で設計した錯視立体のデータから3Dプリンターによって立体モデルを制作するために使用する予定であったが、他の立体と合わせて制作した方が固定費用が節約できるため、最後の約1万円分を次年度に回すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
年度をまたがる時期に設計できた新しい錯視立体のデータから3Dプリンターで立体モデルを作成するために使用する。
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Remarks |
研究者または所属研究機関が作成したウェブページではないが、2016年度の国際コンテストで入賞した本研究の成果が、次のコンテスト主催者のページで紹介されている。 http://illusionoftheyear.com/cat/top-10-finalists/2016/
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Research Products
(18 results)