2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12077
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
櫻井 翔 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 研究員 (70739523)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己主体感 / 自己所有感 / 自己観察 / 運動学習 / 課題発見能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,多感覚統合によって「自分自身がある行動を行っている」という感覚が生じるメカニズム(自己主体感,Sense of Agency,SA)に関する知見を逆用し,実写ベースCGあるいは記録映像中の自己の行動運動からSAを喪失させ,あたかも他者を観察するように自己の運動を観察させることで,自己の運動を意識的に改善するための発見を促す手法の構築である.本研究は,(A)外見的特徴の変形による映像内の自己の第三者化手法およびSA喪失手法の構築,(B)SA喪失手法を利用した自己観察における問題点発見能力向上手法の検討,(C)SA喪失システムの構築・評価という計画からなる. 初年度は(A)の手法構築に取り組んだ.具体的には,映像内の自己の身体の外見的特徴や動きの見た目を現実とは異なって見せるシステムを構築し,それらの見た目がSAに与える影響を検証した.本システムは,実際の手の動きと同期したCGハンドを用いてバーチャルなピアノを弾く際に,CGハンドの見た目について,肌テクスチャの変調(実際の手と異なる色への変調)・形状の変形(CGハンドの指が伸長)・視覚運動間の対応不一致(左右の手の運動の対応が逆転),形状変形+視覚運動間の対応不一致(左右の手を重畳したCGハンドの提示+指の運動の対応が不整合)を生じさせる.展示を通じて400人以上からフィードバックを得た結果,ある程度CGハンドの形状やテクスチャを操作しても視覚運動間の同期が担保されている場合はSAは損なわれない一方で,視覚運動間同期に不整合が生じる場合はSAがに生じにくいことが示された.実際の身体運動とCGの運動の乖離が大きくなりすぎると,SAの生起・喪失以前に,本来の目的である身体運動の分析や運動改善のための指標の抽出自体がうまく行えなくなる恐れがあることから,運動(動き)の特徴はそのままに,外的特徴を変形して映像内の自己を第三者として見せられるかを検討を続けている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,初年度の目標として,自己の身体の外見的特徴や動きの見た目(視覚的特徴)に変形を加えることで,映像内の自己の運動からSAを喪失する手法の構築および評価を初年度の目標として掲げている.これについて,実写ベースCGに反映された自己の身体の視覚的特徴に変形を加えることが可能なシステムを構築し,評価実験の結果,実際の身体の動きと,実際の身体の動きを反映したCGの動きの間に視覚運動間同期の不一致が起こる場合はSAが喪失される傾向にあることが示された. 今年度に構築した手法は,実写ベースCGに反映された自己の身体運動を主観視点で観察する際に適用可能な手法である.今後は,身体の一部の動きだけでなく,全身運動を観察する際に,第三者視点(ビデオ映像等に記録された自己の運動を観察するような状況)に加えて,主観視点(HMD等を用いてリアルタイムに自己の運動を観察するような状況)における自己の運動観察を可能にする手法を構築する計画である.この際,身体運動の習得にあたっては,第三者視点よりも主観視点の方が習得効果が高いという知見がある.そのため,今年度に得られた知見は,今後の計画を進めるにあたって,重要な指針となり得る知見であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,自己の運動の問題発見を促すためのSA喪失手法として,(A)外見的特徴の変形による映像内の自己の第三者化手法およびSA喪失手法の構築,(B)SA喪失手法を利用した自己観察における問題点発見能力向上手法の検討,(C)SA喪失システムの構築・評価という計画を行っている.初年度は(A)の手法構築を行ない,実際の身体の動きと,実際の身体の動きを反映したCGの動きの間に視覚運動間同期の不一致が起こる場合はSAが喪失される傾向にあることが示された. 今後は,(B)SA喪失手法を利用した自己観察における問題点発見能力向上手法の検討,(C)SA喪失システムの構築・評価を行なう予定である.具体的には,(B)では,(A)の手法を元に,身体的運動を行なう際に単なる自己観察を比べてどの程度問題点を発見しやすくなるかを検証する.ここでは,自身の同じ動作におけるSA喪失処理を行った映像と処理を行わない映像を提示し,課題点・問題点の発見件数がどのように変化するかを検証する.また,(C)では,(A)(B)にて構築・検証したSA喪失手法を用いて,全身運動を伴うような運動を行なう際のSA喪失効果および条件を明らかにする.手法の統合にあたっては,対象とする運動技能によって変化させることが必要な動作や操作してはいけない視覚的特徴が存在する可能性があること,また実際の身体と提示する複数の感覚間の齟齬が生じる可能性も考えられる.そのため,視覚的な身体変化の時間的・量的パラメータについても検証を行なう.そして,実際にスポーツ等を行なう場面に本手法を導入し,構築した手法の評価やユーザの評価を元に,SA喪失のための統合的システムを構築する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の3点である. (1)初年度に構築したSA喪失手法の被験者実験の謝金について,構築した手法を学会で発表した際に予想以上の体験者が得られたために被験者実験による謝金の支出が必要なくなったこと.(2)SA喪失システムを構築するにあたってヘッドマウントディスプレイ(HMD)を購入する予定であったが,自己の運動の視覚的特徴を変形・提示する際に,HMDのようなウェアラブルシステムが必要のないシステムの構築を行なったため,物品費の支出がなかったこと,(3)その他(英文校正費)が予定より安くなったこと.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は,本研究で提案するSA喪失手法の構築にあたり,身体の一部だけでなく,全身運動を伴う身体の運動について,第三者視点から自己を観察するための映像記録中の自己の身体に変形を加える手法に加え,主観視点で自己を観察する手法を構築するにあたり,初年度に購入しなかったHMDを導入するとともに,電子部品や機構部品,実験データを保管・記録するためのデータ記録媒体を購入する予定である.また,提案手法の精緻な評価・検証を行なう上で,実験被験者および研究協力者に対する謝金として使用する. 身体的特徴を変形・フィードバックする際に,自己認識に表れる影響を検証するにあたり,行動指標を測定するための身体各部位の動きを高精度で検出・解析し,身体動作変化の検証を行なうための小型無線多機能センサシステムを含む記録装置の購入,成果を国内外で発表するための旅費資金,研究成果投稿料については,当初の予定通り使用する予定である.
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Research Products
(5 results)