2017 Fiscal Year Research-status Report
言語理解における文脈形成の脳機構の事象関連電位研究
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15K12096
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
杉本 俊二 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50422811)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀川 順生 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), シニア研究員 (50114781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文脈形成 / 意思決定 / 問題意識 / 問題解決 / 緊張・緩和 / 笑い / 楽曲選好 / 旋律輪郭 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、既知の文脈や問題意識・予測に基づく旧情報と、逐次的に更新される新情報が統合されるときの脳の仕組みを明らかにすることである。初年度および次年度には、既知情報の保持に対応すると思われる前頭近辺での脳波成分の増大を観察するとともに、個々人の問題意識に応じて肯定的な判断を下す場合と否定的な判断を下す場合でガンマ活動が生じる前頭部位に左右差があることを確認した。さらに、既知の情報を上手く利用して課題を自己解決できた場合と、他者から教示されて初めて把握できた場合では、右半球ガンマ脳波活動の部位に差があることを確認し、右前頭活動は正解文脈の自己導出に、右頭頂活動は解の統合や理解にそれぞれ関連している可能性があることを示した。他方、新旧情報の統合時に、文脈的な齟齬によって不調和(緊張)が生じた後、予測されない方法で不調和が解決(緩和)すると、「笑い」が生じることがある。そこで、平成29年度には、ジョークが聴覚的に提示されたときに生じる緊張・緩和構造に関連した脳活動を観察した。その結果、不調和解決により笑い(緊張・緩和)が生じた場合には、左右前頭で特有の脳波成分が観察されることを確認した。さらに、緊張・緩和の相互作用に基づいてヒトの嗜好を予測する神経モデルを提案し、実例として、楽曲の人気度(インターネット検索数)を旋律輪郭から予測することを試みた。この分野の先行研究では、楽曲の和声的協和・不協和(生成音楽理論)、および遷移確率に基づいた予測・逸脱(暗意/実現モデル)が注目されてきた。本研究では、旋律の輪郭(音符パターンにおける音高の上昇・下降特徴)が引き起こす緊張・緩和構造に基づいて楽曲の人気度を予測できることを初めて示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、文脈形成における情報統合の仕組みに関連した脳活動を探ることである。これまで、文脈形成における新旧情報の保持、意思決定、問題解決、笑い、楽曲選好といった、分野横断的な取り組みを心掛け、脳波計測実験および計算論的モデルの作成を進めてきた。平成29年度には、緊張・緩和構造を中心として本テーマを進めた結果、笑いや音楽の分野で成果が得られた。特に、楽曲の旋律輪郭が形成する緊張・緩和の相互作用に基づいてヒトの楽曲選好を予測できることを初めて示した。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
将来的な少子高齢化、また老化や筋萎縮性側索硬化症などの難病が引き起こす社会問題へ対処していく手段として、ヒトと計算機のインタラクティブな相互作用を用いた生活支援機器の開発への需要はますます高まるものと思われる。今後は、文脈理解における緊張・緩和の構造を用いてヒトの嗜好を予測する試みを引き続き続ける予定である。文脈形成における情報統合の脳機構についての知見を深めるとともに、ヒトの嗜好・選好を計算機で予測する方法の基礎を提案することが今後の目標となる。
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Causes of Carryover |
本研究の目的は、文脈形成における情報統合の仕組みに関連した脳活動を探ること、およびその仕組みを神経モデルとして具体化することである。文脈形成に関しては、意思決定、問題解決、笑いや音楽における緊張・緩和構造など、分野横断的なテーマへの取り組みが必要であり、当初の計画よりも視野を広げながら研究を進めている。次年度、緊張/緩和の相互作用に基づいてヒトの嗜好を予測する計算モデルを引き続き発展させ、文脈形成の仕組みをより精緻に調べる計画を立てており、研究期間を延長した。
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