2015 Fiscal Year Research-status Report
変性身体感覚を生み出す新規実験パラダイム:現象論的説明と実践的利用法の提案
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15K12131
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西山 雄大 大阪大学, 産学連携本部, 特任助教 (90649724)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 身体感覚 / 多感覚齟齬 / 非日常体験 / 自己意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は身体や行為に対する「私のものである」という感覚(身体所有感や自己主体感などと呼ばれる.)に関して,錯覚現象を利用することで通常とは異なる身体感覚(これを変性身体感覚と呼ぼう.)を引き起こす実験系を構築し,被験者の主観的な報告に加えて生理学的・心理物理的計測により当該の現象を説明し,リハビリテーションやエンターテインメントなど多方面への応用法を示すことを目指している.健常者に変性身体感覚を与えることは,自明なものに思える通常の身体感覚を逆説的に理解するための手段となるのみならず,臨床現場で見受けられる身体感覚の異常を解明する手段ともなりうる点で重要である. 初年度は基礎となる実験系の構築に注力し,これまでに二つの系を提案した.ひとつは身体非所有感(私の身体にも関わらず私のものでないように感じる)を感じさせるものだ.被験者はヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を通してライブで投影される自身の身体を側方から三人称視点で観察する.この時奥側にある腕に関して,上腕が自身の胴体に隠れるようにして動かすと当該の変性身体感覚が生じることを主観報告により確認した.もうひとつは自身の身体位置感覚を曖昧にするものだ.この系はHMDと全天球カメラで構成され,HMDを装着した被験者はカメラの位置で周囲を自然に見渡すことが出来る.カメラとHMDは独立に移動できるため,被験者は視覚的に得られる位置情報とそれ以外の感覚で得られる位置情報に齟齬をきたしつつ移動することができる(ただしカメラとHMDは計算機を介して有線接続されているため,ケーブル長の制限がある).これを用いて,実験者がカメラを胸の前に保持し,HMDをつけた被験者がその実験者の肩を持ちつつ誘導される予備実験を行った.質問表の結果や感想によると,個人差は非常に大きいものの,身体の浮遊感や空間の異質さなど自身の位置感覚の不定さが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
身体非所有感に関する実験系の提案について神経学系の国際雑誌に掲載され,さらに当初の計画にはなかったより動的な変性身体感覚を可能にする位置感覚に関する実験系の基礎構築ができている.またエンターテインメント応用の一例としてプロダンサーの協力により,実験系を利用した舞踊公演を行うことができた.したがって新規実験系の提案や成果の公開という点では良いペースで進捗している.しかし当初予定していた身体非所有感覚の心理物理学的計測については環境整備に時間を要したため遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は身体非所有感の心理物理学的計測を行い,生理計測機器の整備を進めるとともに,不定な身体位置感覚に基づいた動的な変性身体感覚の導出を可能にする実験手順の開発に尽力する.後者の基礎的内容については6月の国際会議で発表予定であり,今後の発展について議論したい.
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Causes of Carryover |
当初予定していた生理学計測機器を用いた実験に至らなかったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度助成金と合わせて生理学計測機器を購入し,計測実験を実施する.
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Research Products
(3 results)