2015 Fiscal Year Research-status Report
DNA損傷における細胞ロバストネスのエピジェネティクス解析
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15K12203
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射線障害 / エピジェネティクス / TIP60 / アセチル化 / 細胞ロバストネス |
Outline of Annual Research Achievements |
クロマチン構造変換に着目したDNA損傷修復の研究によりDNA損傷領域のヒストン化学修飾を介したクロマチン制御蛋白質ネットワークが、様々なストレス状況下でダイナミックに変化し、DNA修復反応に多様性をもたらしていることが明らかとなりつつある。放射線障害に対するロバストネスが、こういった多様性に起因しているのであれば、放射線耐性に特有のヒストン化学修飾とその制御蛋白質ネットワークを明らかにすることは、放射線耐性の分子レベルでの理解に繋がるものである。しかしながら放射線障害に対するロバストネスについては、未だ不明な点が多い。本課題では、クロマチン制御蛋白質ネットワークのエピジェネティクな変化に視点を置き、放射線耐性の仕組みを明らかにすることが目的である。 本年度は、異なる線量で細胞に放射線を照射後、サバイブした細胞を回収し、クロマチン免疫沈降でDNA損傷領域のヒストンの化学修飾を検討する予定であったが、サバイブ細胞の増殖能が低下しており、細胞回収に少し時間を要している。その一方で、京都大学工学部の松田知成博士のご指導の下でMultiple Reaction Monitoring (MRM)法を用いた定量プロテオミクスにより放射線障害によるH2AXのアセチル化とリン酸化の変化を2種類のがん細胞で定量した。その結果、H2AXのアセチル化とリン酸化の起こる度合いが2種類のがん細胞では全く異なり、ある細胞では、H2AXのアセチル化の起こる度合いがリン酸化では優位であり、別の細胞では全く逆の現象が観察された。このことから細胞ごとに放射線障害によるH2AXのアセチル化とリン酸化を介したDNA損傷応答ネットワークが、異なることが明らかになった。この知見から放射線障害における細胞のロバストネスが生じる仕組みが、細胞ごとに異なることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、放射線照射後のサバイブ細胞の回収に少し、手間取っているが、増殖はしており、問題はないと思われる。定量プロテオミクス解析によるヒストン化学修飾の定量は、順調に立ち上がり、本年度は、論文として報告することができた。クロマチン免疫沈降については、当初の解析方法を少し改善する必要が出てきたが、この問題も容易に解決できると思われる。従って、研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は、ヒストンH2AXを放射線照射前後で蛋白質複合体として精製し、その構成因子として、TIP60ヒスト ンアセチル化酵素、ヒストンシャペロンおよびクロマチンリモデリング因子などのクロマチン制御因子、そして リン酸化カスケードに関与する因子であるNBS1、MDC1、ATMなどを既に同定している。さらにH2AX複合体は 幾つかのサブ複合体によって構成されていることも明らかにしている。今後は、放射線に耐性となった細胞からH2AX複合体を精製し、すでに明らかにしている耐性獲得以前の細胞からのH2AX複合体のプロテオミクス解析での結果と比較しながら、放射線耐性に特異的なH2AXを介した蛋白質ネットワークとそれに伴うヒストン化学修飾の変化をH2AX複合体のグリセロールグラディエント精製(サブユニットの変化を検討するため)とMRM法を用いた定量プロテオミクス解析により検討する。これらの実験を異なる放射線線量で行う。 次にH2AX複合体の構成因子の中で放射線に耐性となる際に変化が見られた因子についてすでに放射線耐性になっていることが知られているグリオーマ細胞を用いてノックダウンあるいは過剰発現を行い、グリオーマ細胞の放射線耐性能が減弱あるいは増強されるか否かをコロニー形成能で判断する。
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Causes of Carryover |
定量プロテオミクスを行うためのペプチドを購入する必要があるが、今年度は、放射線照射後のサバイバル細胞の回収に時間を要しており、H2AX複合体の構成因子の中で放射線耐性になる因子の定量の実験が少し遅れたのと、クロマチン免疫沈降の実験結果を評価する方法に変更が生じたため、その検討を行う為の試薬が必要となったことが 次年度に使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今回予定しているH2AX複合体精製の為の培養試薬とH2AX複合体の構成因子の定量を行うためのペプチドの購入、クロマチン免疫沈降に使用する為の抗体およびreal time PCR用の試薬などに使用する予定である。
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Research Products
(23 results)