2016 Fiscal Year Research-status Report
森林に沈着した強放射能粒子の探索及び樹葉による葉面吸収機構の解明
Project/Area Number |
15K12206
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
田中 万也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (60377992)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 森林 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原子力発電所で起きた事故により大量の放射性物質が環境中に放出された。福島県の約7割が森林などの植生に覆われていることから、森林域に沈着した放射性セシウムの環境動態の解明が重要である。本研究課題では事故直後の放射性物質の森林域への初期沈着過程及び樹皮・葉面吸収に着目した。そこで、本研究課題の目的を1)福島第一原発事故由来の放射性セシウムがどのような化学形態で樹皮・樹葉に沈着したのか、及び2)放射性セシウムが樹皮・葉面吸収された場合に樹体中でどのような化学状態であるのかを明らかにすることとした。 前年度はスギ、コナラ、コシアブラに着目したが、今年度はアカマツに着目した。福島県の森林においてアカマツを採取し、樹葉、樹皮、辺材、心材に切り分け、各部位に対して安定セシウムを吸着させた。これらのセシウム吸着試料のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルの測定を行った。XAFSスペクトルの解析結果から、いずれの部位に吸着させたセシウムも水和イオンと同様のスペクトルを示した。このことはセシウムが静電的な吸着である外圏型錯体を形成したことを示している。これは、前年度においてスギ、コナラ、コシアブラに対して得られた結果と同様であり、いづれの樹種においても放射性セシウムが比較的移行しやすい化学形態であることを示す結果である。 樹木の主要構成物質の一つであるセルロースへのセシウム吸着実験を行った。その結果、純水中での吸着量が最大で、NaCl及びKCl水溶液を用いた場合は塩濃度の上昇とともに吸着量が著しく減少した。また、XAFSスペクトルの測定結果からは外圏型錯体として吸着していることが示唆された。これら吸着実験とXAFSスペクトルの解析結果はいづれもセシウムが静電的に吸着していることを示しており、整合的な結果であると言える。また、樹葉試料を用いた実験結果とも調和的な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は予定通りアカマツの各部位に吸着したセシウムの化学状態を明らかにすることが出来た。これらの結果と前年度の結果を合わせて、スギ、コナラ、コシアブラ、アカマツのいづれの樹種においてもセシウムは同様の化学形態として移行していると考えられることが分かった。こうした理由から、本研究の目的である樹体内における放射性セシウムの化学状態を明らかにするという計画はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに樹木の各部位に対してセシウムが外圏型錯体として吸着することが明らかとなったが、具体的にどの程度吸着しやすいのか、あるいは脱着しやすいのかを定量的に評価する必要がある。そこで来年度はスギ、コナラ、コシアブラ、アカマツ試料に対してセシウムの吸着実験を行い、分配係数を求めることで吸着量を定量的に評価する。その際、水溶液のpHや塩濃度等の化学組成を変化させながら吸着量の変化の評価を行う。
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Causes of Carryover |
実験に用いる消耗品や研究打ち合わせ等にかかる旅費等が計上していた額よりも低く収まったため差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究成果を積極的に国内外に発信するために、国際学会参加や論文投稿のための経費に用いる。
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