2015 Fiscal Year Research-status Report
ハイパースペクトルイメージングによる大気汚染気体の可視化
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15K12216
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
眞子 直弘 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 特任助教 (00644618)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有害ガス可視化 / イメージングMAX-DOAS |
Outline of Annual Research Achievements |
主要な大気汚染物質の一つである二酸化窒素(NO2)の空間分布を可視化することを目的として、東京都心部、千葉臨海工業地帯等においてハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン製 SIS-H、画角 約10度、画像サイズ 640×480ピクセル、波長範囲400 ~ 750 nm、波長分解能 1 nm、波長サンプリング 0.3 nm)を用いて天空光のハイパースペクトル画像を取得した。地上付近の対象画像は天空光の明るさによって8 ~ 16秒程度(露光時間は各画素につき1/60秒 ~ 1/30秒程度)で取得できた。対象画像とは別に、30分に1回程度の割合で天頂付近の参照画像を取得した。対象画像と参照画像に適切な波長校正を施し、それらの比から算出したNO2の吸収スペクトル(差分光学的厚さ)をシミュレーションと比較することにより、NO2の量を差分スラントカラム濃度([分子数/単位面積] = 体積濃度 [分子数/単位体積] ×実効光路長 [単位長さ])として定量的に評価し、その2次元分布を画像化することに成功した。得られたNO2スラントカラム濃度は都市大気の値として適切なものであり、地上付近から高度が高くなるに従ってグラデーションのようにNO2スラントカラム濃度が減少する様子が捉えられた。また、今回解析に用いた波長帯(460 ~ 490 nm)には酸素二量体(O4)の吸収帯もあり、NO2と同時にO4のスラントカラム濃度分布も得られた。(O4の体積濃度分布は既知であり、放射伝達シミュレーションを利用してスラントカラム濃度から実効光路長を見積もることができる。) この技術を利用すればNO2の高濃度領域が画像を一目見るだけで分かるため、汚染源や汚染個所の特定が容易になる。また、この技術を紫外領域に応用すれば二酸化硫黄(SO2)といった目に見えない火山ガスの分布を可視化することもできると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実施計画には以下の4つの実施項目を挙げた:(1) NO2の空間分布情報を含むハイパースペクトル画像(HS画像)の取得、(2) HS画像からNO2濃度を算出する手法の開発、(3) 画像解析の高速化(リアルタイム化)、(4) 本研究の手法で測定されるNO2濃度の精度検証。これまでに測定対象である地上付近の天空光と参照基準である天頂付近の天空光のHS画像を取得し、適切な波長校正を行った上で両者の比較からNO2の吸収スペクトル(差分光学的厚さ)を求め、シミュレーションと比較することによってNO2の差分スラントカラム濃度を導出する手法を開発できた。この手法だと、周波数3GHz程度のCPU 1コアで1データセット(640×480画素)を解析するのに10時間程度必要であり、リアルタイムにはできないが、例えばNO2の吸収スペクトルの標準偏差といった単純な指標であれば3分程度で計算できる。この指標からNO2のスラントカラム濃度を見積もった場合の誤差は±10%程度であり、この程度の誤差を許容すれば5分程度の測定間隔でリアルタイム化できる目途が立った。測定値の精度検証は同じ観測サイト(千葉大学)で行われている多軸差分吸収分光法(MAX-DOAS法)によるNO2測定で得られた値との比較で行うことにしている。本研究で開発した手法で得られる値がMAX-DOAS法で普段得られる値と整合的であることは確認済みであるが、より詳細な比較はこれからである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに二酸化窒素(NO2)と酸素二量体(O4)のスラントカラム濃度(体積濃度×実効光路長)の2次元分布を画像化することが可能になった。これを受けて、今年度は以下の項目を実施する。 (1) 体積濃度分布が既知であるO4の情報と放射伝達シミュレーションを使って実効光路長を見積もり、NO2体積濃度(体積混合比)の導出を行う。 (2) 同じ観測サイト(千葉大学)で常時稼働しているMAX-DOAS装置によって測定されたNO2体積混合比を本研究で開発した手法によって測定された値と比較し、精度検証を行う。 (3) 本研究で開発したNO2の空間分布を可視化する手法および精度検証結果を査読付き論文にまとめて発表する。
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Causes of Carryover |
これまでの研究により、ハイパースペクトルカメラを用いた天空光の観測によって二酸化窒素(NO2)の差分吸収スペクトルを取得し、NO2差分スラントカラム濃度の2次元分布を画像化することが可能になった。しかしながら、スラントカラム濃度はNO2の体積濃度に実効光路長を掛け合わせたものであり、体積濃度が一定でも実効光路長が変わるとスラントカラム濃度は変化する。天空光はエアロゾルによる多重散乱によって複雑な経路を辿るため、実効光路長はNO2の分布とは無関係に変わり得る。実観測の結果、異なる時間や離れた方向におけるNO2の分布を比較するためには実効光路長の影響が無視できないことが明らかになった。したがって、NO2の分布データをより汎用的に使えるようにするために実効光路長の影響を補正するアルゴリズムを開発する必要性があり、当初1年であった研究計画を2年に延長した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の助成金は以下の項目のために使用する予定である。(1) 二酸化窒素排出源周辺における二酸化窒素の空間分布情報を含むハイパースペクトル画像の取得(ハイパースペクトルカメラのレンタル費用および旅費)、(2) 研究成果の学会発表(日本リモートセンシング学会秋季学術講演会等)および論文投稿(Atmospheric Measurement Techniques等)
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Research Products
(2 results)