2015 Fiscal Year Research-status Report
なぜ腐植物質は水処理プロセスの効率を低下させるのか?
Project/Area Number |
15K12236
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山下 祐司 筑波大学, 生命環境系, 助教 (30543227)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水処理 / 凝集 / 腐植物質 / ブラウン運動 / 電気泳動移動度 |
Outline of Annual Research Achievements |
水処理に関する研究は,世界的な都市化・工業化に伴う用水量の増大,およびその利用に伴って発生する排水処理の必要性から,現在最も注目される研究分野の一つである。国内においては,用水供給に加えて,高付加価値製品の製造に欠かせない純水の需要に資するため,高効率の凝集剤探索や高度処理に関する研究が進められている。一方で,処理プロセス性能を高めても除去しきることが難しい天然有機物,特に難分解性の腐植物質が処理効率の悪化を引き起こすとして問題視されている。本提案では腐植物質が水処理プロセスの効率を低下させてしまう作用機構の解明に焦点をあてた研究を行っている。 汚濁粒子表面に対する高分子凝集剤の吸着現象は,水処理における凝集沈殿操作の重要な素過程である。汚濁粒子の凝集効率は,1.撹拌強度,2.粒子の衝突半径,3.粒子の表面荷電特性に起因する粒子間相互作用で規定される。この中で,高分子凝集剤は2と3を凝集に有利な条件へ変化させる。すなわち,「粒子表面に高分子吸着層を形成することによる衝突半径の実質的な増大」,および「粒子表面と反対符号の荷電を有する高分子吸着による荷電中和」の2点により凝集効率が増す。本研究は,この2つの現象に腐植物質がどのように関与するのかを明らかにすることを目的としている。 本年度は,モデル汚濁粒子にカチオン性高分子凝集剤を混合し,さらにアニオン性有機高分子(モデル腐植物質)を添加した複合体を対象として,複合体が示す高分子吸着層厚さを一粒子追跡法で,表面荷電特性を電気泳動移動度で評価した。その結果,モデル腐植物質の添加により,カチオン性高分子凝集剤の吸着層厚さが顕著に減少することが示された。また,電気泳動移動度が正の値から負の値に反転することが示された。すなわち,モデル腐植物質は凝集効率を規定する2つの要因を変化させることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,コロイド粒子―高分子凝集剤―モデル腐植物質を用いて,1.高分子吸着層厚さおよび形態の推定,2.複合体の表面荷電特性の評価,3.懸濁液における凝集速度の決定に関する実験を実施することを計画していた。1および2の項目はほぼ完了した。一方,3の項目については測定装置を設計したものの実験実施には至らず未完了である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には,モデル腐植物質を添加した懸濁粒子―カチオン性凝集剤複合体を対象として,複合体が示す高分子吸着層厚さを一粒子追跡法で,表面荷電特性を電気泳動移動度で評価した。平成28年度以降は前年度で確立した実験系をもとに,コロイド粒子―高分子凝集剤―腐植物質を用いて実験を実施する。前年度で明らかになった諸条件の結果をもとに,実際の腐植物質を添加した場合に生じる高分子吸着層厚さの変化をとらえ,腐植物質の不均質性がもたらす影響を解析し,なぜ腐植物質が凝集効率を低下させるのかを明らかにする。腐植物質特有の現象をモデル系の結果と比較対照することで,その要因を解釈する。
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