2016 Fiscal Year Research-status Report
原生生物テトラヒメナによる新規セルロース分解系の構築
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15K12263
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
遠藤 浩 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (20272932)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | テトラヒメナ / セルロース分解 / シロアリ / 分泌ベクター |
Outline of Annual Research Achievements |
原生動物テトラヒメナを用いて外来遺伝子の発現ベクターの開発・改良を行っている。このベクターは、1)ネオマイシン耐性遺伝子 (NeoR)の入ったスクリーニング用カセット、2)プロモーター (カドミウム誘導性MTT1p、常時発現型Rpl2p)、およびシステインプロテアーゼの分泌シグナルを組み込んだ発現カセット、および3)相同組換えのための導入遺伝子座の周辺配列からなる3つのユニットからなる。このベクターの発現カセットに、シロアリ腸内共生鞭毛虫由来の3種のセルラーゼ遺伝子(EG5: Endoglucanase 5、CBH: Cellobiohydrolase、Cip2-like)をそれぞれ組み込み、発現誘導・分泌後、培養液を回収し、セルラーゼ活性を測定した。 改良前のシステインプロテアーゼ由来プロモーターを用いたオリジナルベクター(pTtSec-CysPp、導入遺伝子座もシステインプロテアーゼ遺伝子座)に比べて、メタロチオネイン1遺伝子およびリボソームタンパク質遺伝子のプロモーターを使用した新ベクター(pTtSec2-MTT1p、pTtSec3-Rpl2p)では10~50倍程度の活性が検出され、改良型ベクターは分泌、活性の発現に十分な能力をもつことが確認された。またこのことは、原生動物繊毛虫に属すテトラヒメナが、外来タンパク質の発現系として、大きなポテンシャルを秘めていることを示唆し、新しい物質産生生物になる可能性を示したと言えるが、現状CBHの発現は成功していない。CBHは、N末端の活性中心が複雑なトンネル構造をとることが知られており、異種発現はとても難しいと言われている。それが非発現の原因である可能性もあり、それを検証する必要がある。。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、エンドセルラーゼ(EG: Endoglucanases)の発現には成功した。エキソセルラーゼ(CBH: Cellobiohydrolase)についてはまだ手つかずの状態であったのでCBHの発現を試みたが、現状では活性を確認するに至っていない。またリグニンを除去する機能を持つと考えられているCip2-like 遺伝子の導入も同時に行った。分泌された培養液そのままでは効果は確認されなかったが、約10倍に濃縮したところ、EGの活性上昇を促す効果が見られた。シロアリ腸内共生原生生物由来の Cip2-likeの活性が確認されたのはこれが初めてである。 一方、テトラヒメナの大核には、平均して50コピーの遺伝子が存在する(擬似50倍体)。導入遺伝子座として使用したミオシン13(Myo13)遺伝子座に組み込まれた導入配列は、そのコピー数を増やしたが、野生型のMyo13はすべて置換されなかった(すべて置換されれば、抗生物質の投与が必要なくなり、安価に培養ができる)。このことは、Myo13遺伝子は生存に必須なハウスキーピング遺伝子であることを示唆しており、導入遺伝子座としては不適当であることが明らかになった。 複数遺伝子の導入に向けた試みでは、2種類の抗生物質耐性遺伝子を利用した。テトラヒメナゲノムには、beta-チューブリン1 (BTU1) 遺伝子の突然変異体にタキソール感受性株(CU522株)がある。この遺伝子座に外来遺伝子を導入して破壊し、BTU2の発現を促し、タキソール耐性株へと形質転換することをめざしたが、うまく機能しなかった。第2の抗生物質耐性遺伝子として用いた alpha-チューブリンでも同様に、1アミノ酸変異によるオリザリン耐性を付与することで、新たな遺伝子導入座位として利用することを試みたが、低コピーでオリザリンに耐性を示すため、導入遺伝子座としては使えないことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、EGとCip2-like遺伝子の発現に成功し、活性が確認されたが、CBHについては成功していない。その原因として、N末端の余分なアミノ酸残基が原因である可能性を検討する。CBHのN末端側は複雑なトンネル構造をとり、とりわけ異種発現では適切なフォールディングがむずかしいようである。そのため、余分な1-2アミノ酸残基の存在が適切な構造形成を阻害している可能性がある。現在のベクターコンストラクションでは、分泌シグナルとCBHコーディング領域の間にBamHIに相当する2アミノ酸が余分に残っている可能性がある。このアミノ酸を取り除き、活性が出現するかどうかを最終年度中に検証したい。 また今年度は、ノックアウトしても生存に必須ではない遺伝子として、新たに beta-Tubulin1 (BTU1) とApoptosis-inducing factor 2 (AIF2) の遺伝子座(ウィーン大学明松隆彦博士との私信)にセルラーゼ遺伝子を組み込み、導入遺伝子の完全置換を行う。 昨年度までの試みにも関わらず、利用可能な薬剤耐性遺伝子がNeoRのみであるので、現状1種類の遺伝子導入ベクターしかない。そのため、一つの細胞に1種類の遺伝子しか導入できない状態である。ピュロマイシンがテトラヒメナで有効であるという論文が出版されたので、ピュロマイシンによるスクリーニングの系を確立する。
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Causes of Carryover |
本研究を遂行する大学院学生の就職活動のために、研究の進行がやや遅れ、実験を翌年度に行うことになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学生の就職活動終了後、実験の再会に合わせて前年度使用予定であったキット類を購入し、また遺伝子合成を行う。合成する遺伝子は、ベクターに組み込む遺伝子を含む約2.8 kb の長さである。両者あわせて28万円ほどかかる。
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