2016 Fiscal Year Research-status Report
脈波におけるカオス解析を利用したうつ病の早期発見並びに治療に貢献する手法の確立
Project/Area Number |
15K12304
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三好 恵真子 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60294170)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 心理学 / 脈波 / カオス / 非線形理論 / 数理医学 / うつ病診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生理心理学で従来用いられてきた線形理論とは異なり、生体信号のカオスという非線形的性質を分析することにより、「人の心を可視化する方法」の確立を試み、またこの手法を精神疾患患者の診断に活用するために、その有効性を確認してゆく。身体のみならず心的状態を鋭敏に反映する生体信号である指尖容積脈波(脈波)に着目し、簡便で無襲撃であり、また経済性も兼ね備えた個人レベルで対応できる脈波測定装置を既に開発しているため、これを用いて各種実験や長期モニタリングを実施し、生体信号におけるカオスの生理学的意味づけを明確にするとともに、精神疾患の病気の種類の分別手法も確立してゆく。ひいてはクラウドを利用した自己診断システムの構築への足掛かりをつかむ。このように早期発見や予防の観点から、得られた成果を日常の行動・状態のモニタリングといった臨床場面で応用し、また社会福祉の分野から自殺の予防や新型うつ病の解明など青少年健全育成へ役立てていきたい。 本研究では、特に社会的要請に応えられるように、臨床場面を含む実践面での応用展開の側面を重視しつつ、本年度は,主として以下の3つの課題に関して検討を行い、それぞれ成果を挙げることができた。
(1)脈波の生体信号におけるカオスの生理学的意味づけの明確化の検討を昨年度に引き続き試みた。 (2)予防と早期発見の観点から生活習慣と脈波の関係性をモニタリングによる分析・評価を行った。 (3)中国への応用展開の可能性を発展させるために、引き続き現地調査を行うとともに、関係者との交流を深めつつ、産学共同研究の可能性を模索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、以下の3つの課題を中心に検討してきた。特に(3)の産学共同に関しては、新たな現地での協力者を得ることができ、また応用展開の実現性においても確たる前進となった。
(1)脈波の生体信号におけるカオスの生理学的意味づけの明確化の検討:前年度までは、様々な病種の精神疾患患者の脈波の測定を行い、その結果を踏まえ、判別分析を用いて対象者が精神疾患病の傾向にあるかを判断してきた。しかしながら、統計上の判断で病気の診断までは困難であるので、治療とどのように組み合わせていくかについて検討を進めた。具体的には、複数の対象者の脈波を測定しつつ、問診により、生活習慣や健康状態等を聞き取りして両者の関係性を分析している。 (2)予防と早期発見の観点から生活習慣と脈波との関係性をモニタリングによる分析・評価:一つは、(1)の結果から、心理的に落ち込みや不安定さを感じやすい対象者に協力してもらい、長期間にわたり脈波の測定を行った。予備軍の挙動に関しても、新たな知見が得られるように現在分析・解析中である。もう一つは、健常者のストレスとの関係性を考察するために「音楽と心理の関係性」に着目した。そして音楽を聴く前、聴いているとき、聴いた後のそれぞれのプロセスにおいて、脳波と脈波の測定並びに非線性解析をおこなった。その結果、音楽の効果は自律神経バランスを減少させるという効果を持つのではなく、より集中させる働きがあることが明らかとなった。 (3)中国への応用展開の可能性の発展並びに産学共同研究の可能性の模索:前年度、中国舟山群島新区における漁民やその家族への聞き取り調査と脈波による心理測定を行い、生活空間における刺激の変化との関係性を考察を深めた。本研究の成果は、学会誌に掲載されるとともに、中国での書籍出版を果たした。他方で、治療と連動したシステムの構築を目指して、中国の企業と共同研究の可能性を模索した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、生理心理学において、従来から主流とされてきた線形解析とは別に、生体信号に潜在している非線形的性質であるカオスを定量化することにより、主として脈波を利用して人の生理・心理状態を推定する手法を確立してゆくが、主として以下の6点を検討してゆくことを目指している。 【課題1】脈波の生体信号におけるカオスの生理学的意味づけの明確化;【課題2】脈波の測定により精神疾患の分別並びに病気の種類の分別を可能にする方法の確立;【課題3】予防と早期発見の観点から生活習慣と脈波の関係性を長期間のモニタリングによる分析・評価;【課題4】新型うつ病との生理的な違いをカオス解析により明らかにしてゆく;【課題5】カオス解析装置におけるソフト面、ハード面でのさらなる簡便性を追求し、クラウドを利用した自己診断システムの構築への足掛かりをつかむ;【課題6】治療と連動したシステムの構築,さらには精神衛生環境が遅れている中国などへの応用を模索
当初の予定では、若い世代に見られる新型うつ病の可視化を検討していたが、従来のうつ病とドラステックな差異が見られる状況を掴むのは困難なため、この分析・調査は【課題3】の中で長期的に検討していく予定である。他方で、パーキンソン病は、顔の表情の乏しさ、小声、屈曲姿勢、小股・突進歩行などの運動症状が生じ、自律神経の症状やうつ病を併発する場合もあると言われる。そこで、専門カウンセラーや専門医の協力の元、パーキンソン患者の脈波を測定し、運動機能に由来する障がいが脈波にどのように現れ、別の原因による精神疾患患者の場合とどのように異なるかを比較分析する予定である。さらに、自己診断システム構築に向けて、脈波を測定する装置として特殊な端末を想定せずに、たとえばカフを用いなくても、スマートフォンの画面上に指を触れるだけでリアルタイムで脈波が測定できる測定装置の開発も検討してゆきたい。
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Research Products
(18 results)