2015 Fiscal Year Research-status Report
食事支援機器による老人・障害者の食生活自立に関する研究
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15K12357
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤原 和人 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (50219060)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 障がい者自立 / 食事支援システム / 安全・安心 / 口腔洗浄 / 低自由度化 / 満足度評価 / 画像処理 / 食材の力学特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
四肢障害や脳性マヒなどの障害者、もしくは高齢者など、自分で食事をとることが困難者用の食事支援システムを開発し食事に関する自立を促すことを目的として、平成27年度は、安全であるとともに安心できるシステムを試験的に作成して被験者の方に評価してもらい、満足度を評価して改良を行った。また、料理ををすくう動作を設計する上で、食品の変形や作用力などを知る必要があり、基礎的な試験法を考えデータを取得した。また、食事後の口腔洗浄法についても機構を考案し試験的な実験を行った。 食事支援装置としては「安全・安心」、「食事の楽しみ」、「自立を促す動作」のコンセプトを満足させる上での基本的設計要素として「安全性」、「信頼性」、「操作性」の3点を設定し、評価を含めて開発を進めた。支援の自動化を主眼にしている市販の機器では自立レベルを意図して使用することができるように多様性を持たせたものを製作している。「安全・安心」については、料理を口への運ぶ機構の自由度を下げて機械的な可動範囲を制限することで、機器の誤動作に対する危険性を下げるとともに、搬送軌道を利用者が直感的に予測できる構造によって、安心感を高めた。また食べるための最終的な動作は使用者に任せることにして、安全性を保つとともに食事への主体的な行動の機会を持たせた。「食事の楽しみ」としては、その都度口にする食物を容易に選択できるシステムを考案した。この場合、選択にあたって搬送の軌道を変えないように、食物を載せたトレイを移動させ、スプーンは移動させない。スティックやボタンによる選択位置調整は難しいので、利用者の頭につけた小型照明からのスポット点を目的の食物にあて、カメラで検出した位置からトレイを自動で移動させることとしている。 口腔洗浄法としては、ノズルから出る水流と吸入チューブへの排出によって清浄機構を考案し、試作して効果を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のメインテーマとなっていた肢体不自由者を対象とした食事支援システムの開発については、基本コンセプトの立案、設計および試作、そして評価を行った。本システムは研究計画に基づき、「安全・安心」、「食事の楽しみ」、「自立を促す動作」のコンセプトを満たすような設計になっている。 制作に当たっては、筋ジストロフィーの被験者に意見を聞き、満足度を上げるようにシステム構成を改良している。福祉機器としての評価基準にも照らして、完成度を評価していおり、今後必要な改善点も把握できている。また、いくつかの性状の食品に対する力学的特性の試験法を考案し、次年度行う予定であった食物をすくう動作のためのデータについても、定性的な知識が得られている。これらについては2つの論文に投稿し掲載されることになっている。食物の選択については、スポット光があたった位置をカメラ画像から確実に検出する方法を見出し、画像空間から実空間の座標に変換することでトレイの自動移動を実現している。この画像処理技術は他の動作の部分にも応用できる技術である。 研究計画でもう一つのテーマとなっていた食事後の口腔洗浄については、口形モデルを用いた水流洗浄試験を行い、水量や水流方向等と洗浄結果の関連性を調べた。現在は、洗浄時の苦痛を和らげる改良案を考えているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの試作の結果から、課題として残されている主要項目は、「効率の良い食物のすくい動作」、「システムを構成する装置の小型化、軽量化」、「口腔洗浄の効率化と抵負担化」である。これを踏まえて次年度の研究として以下の実施計画を考えている。 「効率の良い食物のすくい動作」については、一部すでに食物の力学特性を調べる中で確認してきたが、変形抵抗や粘着性と強い関係がある。またこれらの特性は、すくう速度や切込み角度、周囲の拘束状態、そして変形回数や経過時間によって変化する。より良いすくい方を求めるために、切込み時にスプーンに加わる力などの情報によってすくい角度や回転速度のフィードバック調整を計画している。また、すくい状況などは画像で評価する方法も検討している。 「システムを構成する装置の小型化、軽量化」については、被験者の満足度から得られた重要項目である。本システムは、単体として利用する以外に、車いすに設置可能な形体も要求されている。また口腔洗浄ユニットとの組み合わせる際も構造的な考慮が必要となる。これに対し、有効動作領域は変えずに機構の簡素化、モータなど機能部品の選択、材料の選択によって解決を計る。特に多彩な情報処理を行う上で、コントローラの選定については最も力を入れなければならない部分である。 「口腔洗浄の効率化と抵負担化」については、現在試作している機構の最適なパラメータを決める必要があるとともに、種々の形状を有す実際の口形・歯並びに対応を考えなければならない。そのため口形に合ったマウスピースの使用を計画している。さらに、洗浄操作は利用者にとって苦痛を伴うものであるので、心理学的効果を含めた苦痛負担の低減化策を検討する。
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Causes of Carryover |
研究発表内容を学術論文に投稿中であり、掲載決定となったが、学会からの掲載料の請求が年度をまたいだため、次年度に支払うことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述の論文掲載料について学会より請求がなされしだい支出する予定である。
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