2015 Fiscal Year Research-status Report
シティズンシップ育成のためのセカンドステップとしての理科学習プログラム開発と実践
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15K12376
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
萱野 貴広 静岡大学, 教育学部, 教務職員 (30293591)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中武 貞文 鹿児島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40404016)
大矢 恭久 静岡大学, 理学部, 准教授 (80334291)
熊野 善介 静岡大学, 教育学部, 教授 (90252155)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シティズンシップ教育 / アーギュメントスキル / 中学校理科 / タブレット / トランスサイエンス / 高レベル放射性廃棄物地層処分問題 / 根拠・主張・論証 / デジタル教科書 |
Outline of Annual Research Achievements |
中学生を対象に、シティズンシップ育成のためのアーギュメントスキルの獲得を目指した理科学習プログラムの開発・実践研究において、初年度は以下の実践を行った。 1.中学生の実態調査: 公立中学校2校、附属中学校1校の約500名に対して、理科授業における思考と討論に関する意識調査を行った。このうちの公立中150名と附属中117名の2年生については、ほぼ全員が「みんなと話し合うことは必要だ」と捉えていた。しかし、「理科の授業では話し合わなければならない問題は少ない」と答えた生徒の割合には、公立中26.7%、附属中46.1%と違いが見られた。また「自分が結論を出すきっかけ」として多かったのは、公立校で「先生が言ったこと、友達の意見」、附属中で「自分の知識、教科書に書いてあること」と、2校に差が見られた。「学校種別に応じて、授業プログラムや指導法への配慮の必要性が示された。 2.アーギュメントルールとワークシート: アーギュメントルールの策定、「根拠、主張、論証」の要素が入ったワークシートを作成し、検証授業を行った。 3.専門家による講義: 公立中1校に駐日英国大使館政策官を招き、英国のエネルギー政策に関して、世界のエネルギー事情を視野に入れた英国民の決断等についての講演を開催した。 4.タブレットを用いた高レベル放射性廃棄物処分費選定問題への取り組み: 左記問題をゲーム化してiPadミニにインストールして、中学2、3年生およそ500名に対してそれぞれの理科授業プログラムの元で取り組んだ。困難な題材にもかかわらず生徒は真剣に取り組み、結論を出すことや相手を説得することの難しさを実感していた。1研究事業で、500名もの中学生に高レベル放射性廃棄物地層処分について考えさせた取り組み他に類を見ない。授業の導入として「日本のエネルギー2015」を活用し、電源のベストミックスにも考えさせることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画である、1.シティズンシップ育成に必要なスキル獲得のためのアーギュメントルール策定(①アーギュメントルールとワークシート作成、②ルールの理解と遵守のための教師及び生徒への指導)、および、2.アーギュメントスキル獲得のための理科学習プログラムの開発と実践(③ 単元「自然界のつり合い」で討論体験後、“高レベル放射性廃棄物問題”討論、④ 2年生最終に“高レベル放射性廃棄物問題”討論後、“電源のベストミックス”を題材に討論)に従い、 1.新たに策定したアーギュメントルール案に対してワークショップを通して現場教師との合意形成を図り、公立中学校2校と附属中学校1校で新規作成のアーギュメンテーション用ワークシートを導入実践した(上記①②)。 2.高レベル放射性廃棄物地層処分問題に関して、一画面で複数の情報を提示し、操作性の高いシミュレーションゲームをプログラミングして、中学生約500名がiPadでそれに取り組み、授業の目的に応じて議論した。その導入として生徒は、経済産業省資源エネルギー庁作成「日本のエネルギー2015」を資料として電源のベストミックスについて考えた。ここでは、経済産業省および原子力発電環境整備機構の協力を得た。高レベル放射性廃棄物地層処分問題に一度に中学生500名が取り組むような研究事業は、他に類を見ない(③④)。 3.遺伝子組み換え食品を題材として、生徒が討論する授業を展開した(③)。 4.公立校1校の3年生220名に対して、駐日英国大使館上級政策担当官による「気候変動に対する国際的な取り組みと英国国民の決断」について講演を行い、生徒に広い視点を持たせることを図った。 5.本研究趣旨に賛同した理科教諭が新たに加わり実践校が1校増えたが、教諭の1人が海外中学校に赴任することになり実践協力校が1校減った。このことにより、本研究に関係する赴任国の情報収集が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究分担者、実践協力者等による全体会議を5月中に開催する。そこでの実践発表、相互評価および文献資料等の検討によって研鑽を積みつつ、今後の方針について検討する。ゲームプログラム、アーギュメントルール、ワークシートや実践プログラムに関する成果については、8月に予定されている関連学会の全国大会等で発表し評価を得る。 それを受けて必要に応じた修正を行い、9月から翌年3月にかけて、アーギュメントスキル獲得に効果的な授業プログラムを展開し、臨席会議やWeb会議を通して評価を行う。 当初予定していなかったが、iPadの持つiBook機能を活用して、エネルギーや環境に関する総合的な学習を可能にするデジタル教科書の作成に挑戦し、タブレットを活用した授業実践の参考に資する情報の提供を試みる。 構成する内容として、・日本および世界の高レベル放射性廃棄物地層処分問題対策 ・日本のエネルギー事情と世界 ・地球温暖化問題と気候変動枠組条約締約会議(COP) ・気候変動に関する政府間パネル報告書(IPCC) ・低炭素社会実現のための世界各国の取り組み ・絶滅危惧生物に関する保全状況や分布、生態情報 ・世界の食糧事情と遺伝子組み換え食品の普及 ・自然災害および放射線災害に対する防災と減災 等、幅広い領域にわたる国内外の情報を網羅することを考えている。 中学校理科の学習内容に関係する社会問題に対して、これら情報を有効に活用して積極的に考え判断し、積極的に関わろうとする資質を持った生徒の育成を目指す。2年間を通して得られた成果については、報告書およびホームページ等で広く周知を図る。
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