2016 Fiscal Year Research-status Report
リテラシーの涵養とPBLを主眼とする双方向実験ノートを用いた実験指導に関する研究
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15K12401
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Research Institution | Kurume National College of Technology |
Principal Investigator |
越地 尚宏 久留米工業高等専門学校, 電気電子工学科, 教授 (90234749)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
馬越 幹男 久留米工業高等専門学校, 材料工学科, 教授 (10091357)
森 保仁 佐世保工業高等専門学校, 一般科目, 教授 (80243898)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 双方向的実験ノート / 科学的リテラシー / PBL / 学生実験 / 実験ノウハウ・留意事項引き継ぎノート / 自己評価・相互評価 / 機器実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
高専や大学等の学生実験実習での学生の成績評価は「実験レポート」の評価が主である。しかし科学技術者の実践力育成の観点では、リテラシー教育の一環としての「実験ノート記載技法」の指導は重要である。さらにSTAP問題時に「実験ノート」の重要性が社会の共通認識として提起・再認識された。そして「研究者個人の備忘録的側面」を超え、「実験の当事者以外でもノート記載をトレースすることにより実験を再現可能な実験情報の記載」や、「思考ツールとしての実験ノート」のあり方に関心が集まった。一方指導者からすると「実験ノートの重要性」を理解していても、かかる手間の多さや「具体的にどのような指導したら良いかのノウハウ不足」は否めない。そこで本研究は実験ノートを核とする学生実験指導法に関し様々な角度からのノウハウや問題点の蓄積を試みた実践的萌芽研究である。 今年度は昨年度と同様、本学科4年次の大型電気機器を扱う「機器実験」科目において実験ノートを核とした指導を行った。主たる取り組みとしては前年度と同様、1)基礎情報シールの活用、2)回路の結線を結線図ではなく実体結線図を手書きにすることによる具体的な理解と回路図を読めないものでも回路を復元できる仕組み作り 3)「実験ノウハウ及び注意事項引き継ぎメモ」により実験グループ間のノウハウの共用(紙ベースでのノウハウのクラウド化)等を試みた。さらに今年度は本学科3年生が行う「応用物理実験」においても同様な取り組みを行い、学年進行に伴う学生の習熟度に対しての比較検討を行った。さらに新たな着眼点として「ノートの自己及び相互評価」の観点を取り入れた。特に相互評価は今までは「実験ノートは個人に帰属する物」という既成概念があり、他者のノートから記述のノウハウを得るという体験は学生には新鮮な体験であり、学生からのアンケート結果からもその試みは役に立ったという意見が多く得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、実験ノート指導に関し、学生の行う取り組みとして、新たに「学生が記載した実験ノートの自己評価及び学生が各々記述した実験ノートの相互評価を行いそれを次回のノート記述に反映させる」といういわゆるPDCAサイクルにおける”C”と”A”に相当するアクションを実験ノート記述に採用するという新たな切り口を着想した。この着眼点は今までの実験指導には無い斬新な切り口であり、学生からのアンケート調査でも高評価であった。しかしその実践はその手法も含めて試行錯誤の段階であり、更なる改良をすることにより更なる大きな成果が期待できる。この取り組みにおいてはその実践方法も含めて教員の負担軽減の観点も伴いながら更なる改良に着手したい。またICT機器等の活用においてもプログラミング等の技術習得等の困難さがあり進捗が遅れている。今年度はその点も集中して取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として以下の4点を挙げる。(1)【複数学年への適用に伴う学年進捗及び習熟度に応じた指導法の開発】電気電子工学科4年に対する機器実験に加え、まだ実験技法やスタンスの確定していない3年生に対する「応用物理実験」に同様の実験ノート指導を核とする実験指導を行ったところ、当初の予想以上に学年での差が見られた。そこで今年度は、この2学年に対する取り組みを継続して行うと同時に、さらに4年次の機器実験の経験を終えた5年生の「電子実験」にもこの取り組みを導入し、学年進捗におけるノート記載技法や意識の変化を調査する。(2)【自己評価及び相互評価手法の深化と確立】今回の試みで、実験ノートの記載内容を客観的に自己評価したり、他者のノートをみて学ぶべき点や取り入れたい点をピックアップし、それを次回の自分のノート記述に積極的に反映させる取り組みに着手し、こちらの予想以上に大きな手応えを感じた。そこで今後はこの取り組みを指導者側の負担軽減の観点も伴いながら更なる有効活用手法の確立を目指したい。(3)【実験ノートや実験レポートや各種評価シート等ののデジタル処理やe-ラーニングシステムとの連携】実験ノートやレポートは現在はいわゆる紙ベースで保存されている。また近年は学生個々の達成度評価である「ポートフォリオ」が注目されている。そこでICT技術やデジタル処理技術を用いてこれらレポートやノートをデジタル処理した後、QRコード等を用いて学生個々のフォルダーに自動で実験項目別に分類しポートフォリオ作成に供する等、指導側の省力化も視野に入れた処理の実現を行う。その際にはe-ラーニングシステムであるMOODLE等の連携も視野に入れている。(4)【国際学会へでの発表】過去2年、工業教育国際会議における発表を行い大きな反響があった。今年度も同学会に発表を予定しており、内外の研究者との意見交換を行う。
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Causes of Carryover |
本研究は学生実験等で補助的な位置づけであった実験ノートの持つ特性を様々な視点から活用し、「将来の科学技術者の卵である理系学生の科学リテラシーや能動的姿勢の涵養」を目指した実践的研究である。 その実践及び国際会議等での意見交換等から、新たな視点として「学生の記した実験ノートの客観的な自己評価とそれらの学生間での相互評価」が実験ノートを核とする実験指導手法の開発において、その深化に有効な可能性が示唆され、それを積極的に活用した実践を行うことを計画している。さらにこの実験ノートを核とした取り組みを様々な実験科目や創造的実践科目に適用することによりそのノウハウを蓄積することを計画している。さらに実験ノートや実験レポートのICT技術を用いたデジタル処理の取り組みに遅れが生じており、今後はそれに注力をする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は以下の3点を重点に予算執行を行う。 (1)異なる学年に対する実験科目についてノートを核とした指導を行いそれに関連した物品(主として消耗品)の購入を行う。(2)ICTやデジタル処理技術を積極的に用い、実験ノート、実験レポート等の紙ベースの物をデジタル処理しその効果を検証する。さらにQRコードやバーコード等を活用し、これらをノート等に貼ることにより学生個々のフォルダーに分別する等の自動処理技術の確立を目指す。さらにMOODLE等のe-ラーニングシステムとの協働をめざす。これらに備品費を使用する。(3)第11回国際工学教育研究集会(The 11th International Symposium of Advances in Technology Education (ISATE2017) Singapore)等をはじめとする学会発表やアンケート調査等を行い意見交換や情報収集を行う。
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Research Products
(6 results)