2015 Fiscal Year Research-status Report
聴覚末梢系における機能低下を模擬した聴覚障害シミュレータに関する研究
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15K12404
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
黒木 速人 筑波技術大学, 産業技術学部, 教授 (00345159)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヒューマン・インタフェース / 聴覚障害 / 人間情報工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
聴覚障害の中で多くの比率を占める感音性難聴は,聴覚末梢系である内耳の有毛細胞や内耳から脳中枢系に接続される聴神経の機能低下・機能不全に起因する.聴覚末梢系で生じている機能低下・機能不全を客観的に測定することで聴覚障害者個々人が持つ聴覚フィルタがどのような特性になっているかを推定し,それを再現することで個人が持つ聴覚障害の「聴こえ」の状態を模擬することが可能である.本研究では,聴覚障害を模擬するリアルタイムシミュレータを開発することを目的とし,同時に,聴覚フィルタの推定やその再構成方法などの関連技術の構築も行う.聴覚障害の「聴こえ」が体感できることにより,聴覚障害に対する社会的啓蒙の一助になることが期待される. 感音性難聴の原因は聴覚末梢系の機能低下・機能不全に起因するが,聴覚末梢系でどのような現象が生じているかは,未だ解明されていない領域が多く存在する.断片的な聴覚障害の現象として捉えた報告[Brian C. J. Moore, Cochlear Hearing Loss Second Edition, Wiley, 2007. など]によると,聴覚末梢系の機能低下・機能不全により,聴覚障害者の聴覚末梢系の機能低下として,以下の3つの現象が観測されることが知られている.1.聴力閾値の上昇,2.聴覚フィルタの拡幅,3.リクルートメント(聴覚補充現象) 平成27年度は,先に挙げた聴覚障害において聴覚末梢系で生じる機能低下現象に関する論文調査を主に実施した.また同時並行して,これらの機能低下を客観的に測定するための装置が入手または作成が可能かどうか等に関して調査を行った.論文調査に関しては,結果をまとめている段階である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究では,聴覚障害の聴こえの状態を再現する聴覚障害リアルタイムシミュレータの開発のために,研究項目を以下に分類して実施する計画である.a.聴覚末梢系の機能低下・機能不全に関する各種測定,b.測定結果に基づく聴覚フィルタの再構成,c.再構成した聴覚フィルタのシミュレータへの実装 項目a.では,ヒトの聴こえの認知面を基礎とする心理物理実験により,聴覚障害の聴覚末梢系の機能低下・機能不全を測定指数値化する技術が必要になる.項目b.では,測定した聴覚末梢系の機能低下・機能不全の結果をもとに,被験者個人個人の持つ聴覚フィルタを推定,再構築するために,認知物理的側面と工学的側面の知識や技術が必要になる.項目c.では,再構築した聴覚フィルタを工学的手法により実際のリアルタイムシミュレータシステムへ実装する技術が必要になる. 平成27年度は一つ目の研究実施項目である「聴覚末梢系の機能低下・機能不全に関する各種測定」を実施する.先に述べた通り,聴覚障害における聴覚末梢系の機能低下・機能不全は,断片的ではあるが,以下の3つの代表的な現象として観測することができる.1.聴力閾値の上昇,2.聴覚フィルタの拡幅,3.リクルートメント(聴覚補充現象) 計画当初,平成27年度はこれら3つの現象を観測するための各種測定環境の構築を行う予定であった.しかしながら,研究を進める段階で事前調査が不足していることが判明したため,急遽,平成27年度の作業を論文調査に切り替えた.ただし本研究の実施期間は3年を計画しており測定環境整備を急ぐ必要があるため,論文調査と同時に聴覚末梢系の機能低下を客観的に測定できる装置で入手や作成が可能かどうかの調査を実施した.上記の理由から,当初の計画と比較すると計画は遅れていると言わざるを得ず,研究期間までにシミュレータを構築するために,再現する聴覚末梢の機能低下を限定して構築することも視野に入れている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,聴覚障害の聴こえの状態として,聴覚末梢系の機能低下を客観的に測定し,それの特性をリアルタイムな入力音に対して模擬的に再現するシミュレータを実現しようとするものである.先に述べた通り,当初の計画と比較すると事前調査不足は否めず,計画は遅れていると言わざるを得ない.しかし,本研究の目的はシミュレータの構築であるため,研究期間までに構築するために,再現する聴覚末梢の機能低下を限定して構築することも視野に入れている. 平成28年度以降は,現在行っている論文調査と測定環境整備を早期に終え,次の項目である「聴覚末梢系の機能低下・機能不全に関する各種測定」に着手し,二つ目と三つ目の研究実施項目である「測定結果に基づく聴覚フィルタの再構成」と「再構成した聴覚フィルタのリアルタイムシミュレータへの実装」を早期に実施する.項目二の「聴覚フィルタの再構成」は,コンピュータ上の数値解析ソフトウェア(MATLAB)上にて再現する予定である.これはコンピュータ上の数値解析ソフトウェア上での再現であるため,あくまでも非リアルタイムとしての再現となる.項目三の「リアルタイムシミュレータへの再現」は,リアルタイムにディジタル信号処理が行えるDSP(Digital Signal Processor)もしくはFPGA(Field Programmable Gate Alley)を用いた実装を想定している.非リアルタイムシステムからリアルタイムシステムへの実装であるため,使用言語間の移植が必要となる.また同時に,成果のドキュメント化と発表を進める.本研究では聴覚末梢系の機能低下・機能不全の検査および聴覚フィルタの推定に対して,検査音として純音(もしくは,純音とホワイトノイズ)を用いるが,検査音として語音を用いることも今後の研究展開として検討していく予定である.
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Causes of Carryover |
計画当初,平成27年度は聴覚末梢系の機能低下を測定するための各種測定環境の構築を行う予定であった.しかしながら,研究を進める段階で事前調査が不足していることが判明した.論文調査と同時に測定環境の入手や作成が可能性の調査を実施した.これらの理由から,平成27年度の作業を環境整備から論文調査等に切り替えたために,測定機器購入のために計上した経費が未使用となった.これらの費用は平成28年度以降も研究遂行に必要な実験環境であるため,早急に整備する予定である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究の目的はシミュレータの構築である.平成28年度以降は,現在行っている論文調査と測定環境整備を早期に終え,次の項目である「聴覚末梢系の機能低下・機能不全に関する各種測定」に着手し,二つ目と三つ目の研究実施項目である「測定結果に基づく聴覚フィルタの再構成」と「再構成した聴覚フィルタのリアルタイムシミュレータへの実装」を早期に実施する.項目二の「聴覚フィルタの再構成」は,コンピュータ上の数値解析ソフトウェア(MATLAB)上にて再現するため,コンピュータと数値解析ソフトウェアが必要となる.項目三の「リアルタイムシミュレータへの再現」は,リアルタイムにディジタル信号処理が行えるDSP(Digital Signal Processor)もしくはFPGA(Field Programmable Gate Alley)の開発環境が必要となる.平成28年度中に,これら実験遂行に必要な環境を整備していく予定である.
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