2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12438
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
鈴木 寿志 大谷大学, 文学部, 准教授 (60302288)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
乾 睦子 (林睦子) 国士舘大学, 理工学部, 教授 (10338296)
先山 徹 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 准教授 (20244692)
大友 幸子 山形大学, 教育文化学部, 教授 (40143721)
清水 洋平 大谷大学, 文学部, 非常勤講師 (50387974)
廣川 智貴 大谷大学, 文学部, 准教授 (60410974)
田口 公則 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (70300960)
高橋 直樹 千葉県立中央博物館, 自然誌・歴史研究部, 主任上席研究員 (90250133)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 近代建築 / 山形城 / ヘルダリーン / 結界石 / 花崗岩 / 天然砥石 / 井内石 / 弘法大師 |
Outline of Annual Research Achievements |
人と密接に関わる地質学的研究を推進するために、研究分担者7名、連携研究者2名、研究協力者1名(石橋弘明)がそれぞれの課題について研究を進めた。2月末には大谷大学真宗総合研究所にて科研費年度末報告会を開催し、研究代表者・分担者4名と研究協力者1名が成果を報告した。以下それぞれの研究課題の実績を記す。 1.建築石材の採掘場(神奈川県真鶴の小松石、宮城県気仙沼市の唐桑石など)と近代石造建築物の訪問調査(聖徳記念絵画館、国会議事堂)をそれぞれ行った。2.茨城県の新治花崗岩の利用について現地調査と文献調査を行った。県指定石造文化財33点の内、25点が新治花崗岩を使用していた。3.古代山城に用いられている花崗岩石材の風化状況を調べ、切り出された花崗岩の風化進行について考察した。4.山形城の坤櫓の等高線図を作成し、発掘時の石垣・栗石の配列状況を記録した。石垣石材の花崗岩類の放射年代を測定した。5.ドイツの詩人ヘルダリーンの詩について、彼の友人である地質学者エーベルのアルプス研究をふまえてヘルダリーンの詩を捉え直した。6.初期仏典にでてくる地質(岩石や鉱物)についての文献調査を実施し、布薩に関わる石「結界石」に視点を当てた。7.石造物の産地同定の研究として、高野山と糸魚川における石造物、および尾道と小豆島における採石場跡地を調査した。8.鹿児島県日置市の小正醸造の立地と湧水井戸、ならびにサツマイモ畑の関係についてまとめた。9.地形利用の例として水力発電所の立地(段丘地形)を取り上げた。天然砥石に関して秦野市水無川の礫分布調査を行った。10.千葉県の井内石製石碑の調査を進め、石碑の内容、形状、建立年代等を記録した。石材に関する博物館展示を企画し、実施した。11.3つの弘法大師伝説(高知県くわず貝、山梨県饅頭石、長野県焼餅石)について、既存文献を整理し、現地調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いずれの研究分担者、連携研究者、研究協力者も学術大会や年度末報告会で成果発表を行った。また研究分担者、連携研究者の多くが専門誌や書籍に論文を寄稿し、計10編が出版された。平成27年9月には研究代表者が世話人を務めて日本地質学会にてトピックセッション文化地質学を開催した。合計18件の研究発表があり、それらのうち8件は科研費研究者によるものであった。残りの10件は本科研費の研究組織とは関係なく申し込みがされ、発表された。このことは挑戦的萌芽研究の目的である「新しい学際分野の提唱」に対して、多くの関連研究者が興味を示し、呼応したことを意味する。さらにこの波及効果は、学術雑誌特集号の呼びかけで発展している。地質学会講演者に文化地質学特集号での原稿募集を行ったところ、15編もの論文原稿が集まった(科研費研究者による論文10編、それ以外の研究者による論文5編)。これらについては現在原稿執筆と編集作業を行っている段階であり、平成28年度の成果として期待される。 一方で、すべての研究課題が順調に進んでいるわけではない。平成27年度の研究実績概要で示した中で、一部の研究課題での現地調査が遅れている。それらは3.九州・中国地方の古代山城にみられる花崗岩石材、6.仏典・仏教寺院にみられる地質、8.鹿児島の火山地質と焼酎文化の課題である。これら現地調査が進んでいない課題については、特に2年目に集中的に研究を進めていく必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は特に現地調査が遅れている課題について、集中的に研究を進める。進捗状況欄に記載した3件の課題は、次のように推進する。3.岡山市の鬼ノ城と同時代といわれる古代山城の「大廻小廻山城址」の石列や水門に使われている石材を観察し、その産地を考察する。6.東南アジアの国々の仏教寺院にみられる結界石の地質について、文献調査、現地調査を併用して進める。8.鹿児島県のシラス台地に展開する焼酎醸造所を複数訪問し、水源の位置、周辺の土地利用状況、サツマイモ畑の分布について現地調査を行う。これらの研究を通じて、戦国時代の石材利用の実態、東南アジア仏教寺院での地質資源の利用、焼酎文化圏と火山岩分布の関連が明らかにされるだろう。 平成28年は宮沢賢治生誕120周年記念の年である。宮沢賢治は岩石や鉱物に造詣が深く、文学作品の中にも地質学的記述が度々登場する。そこで平成28年の日本地質学会学術大会では、「文学と地質」に関するミニシンポジウムを開催する予定である。人々が地質をどのように捉えているのか、宮沢賢治の文学作品を通して考えてみたい。この課題に関連し、宮沢賢治の作品と地質学の関係を長年研究されてきた、産業技術総合研究所名誉リサーチャーの加藤碵一氏を研究協力者として迎え入れる。 研究分担者のうち博物館に務める研究者2名が、石材と人々の暮らしの関係を考える企画展を実施する。神奈川県立生命の星・地球博物館では12月に開催予定である。また千葉県立中央博物館ではすでに石材展が開催されており、6月まで行われる。これらの展示において来館者のアンケート調査などを通じ、一般の人々の地質に対する意識・捉え方を明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
平成27年度の研究はおおむね順調に進展してきたが、年度末から平成28年度初頭にかけて学術雑誌に特集号を掲載するために、執筆と編集作業が集中した。そのため、元来予定していた現地調査が一部実施できておらず、調査旅費の一部が執行できなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度には現地調査が遅れている課題(東南アジアの寺院にみられる結界石、鹿児島県のシラス台地と焼酎文化)について、積極的に現地調査を行う。
|
Remarks |
日本の文化地質学に関する研究の進展状況を紹介している。
|